第143話 叱責

「ナミちゃんが純粋って、どうかな~・・・鈴やんと、いつもお下品な話してるけど・・・あ、もしかしてゆりかさんの前では言わないのかな。」


 アヤちゃんは腑に落ちない顔をして尋ねました。


「ううん、エロマンガ好きとか言ってたよ・・・最初に会った時。初対面でそれ言うかって思ったけど・・・」


 でもきっと、初めて会った時から、ありのままの感性で話す彼のことが好きでした。


「でも、ナミさんとどうこうなりたいとかじゃないの。一緒にこうして修繕している仲間ってだけで満足だから。私、男の人と付き合うとダメなんだよね。失敗ばっかりなの。キズモノだし、汚れた人間だし。」


 自虐的かもしれませんが、そんな言葉を漏らしていました。私のしてきたことを振り返れば、事実に違いありませんでした。


 何気ないつもりでしたが、ふと視線を感じて振り向くと、アヤちゃんは作業する手を止めて私を見つめていました。驚いたような顔でした。


「なに、言ってるの?ゆりかさんって自分のことそういう風に思っているの?」


 アヤちゃんは聞き返しました。心配するような表情でした。


「あ、えーと・・・私ね、いろいろあったからね。アヤちゃんやみんなは知らないかもだけど、けっこうひどい人なんだよ。詳しく言えないけど・・・」


 言葉を濁しました。追及され尋ねられたら困ると思いました。


「ねえ、そんな風に言わないでよ。私、ゆりかさんのこと大好きだよ。優しいし、一生懸命だし、うちの子達もなついているし。なんでそんなこと言うの?」


 彼女は鋭い声になりました。まるで私を咎めるかのようでした。


「バツイチだから・・・?言っておくけど、私もバツイチだよ。子持ちのバツイチで、鈴やんとは再婚したの。菜々子と鈴やんは実の親子じゃないけど、ほんとの家族だと思ってる。いろいろあったらキズモノなの?私は汚れてる?」


 思いがけないアヤちゃんの問いかけにうろたえました。


「えっ、違うよ。アヤちゃんは違う。私と違ってまっすぐだよ。私はね、歪んでいるから・・・人に言えないようなことがいっぱいあるの。」


 慌てて言いました。アヤちゃんの話にも驚いていました。


「再婚してたとかは知らなかったけど、アヤちゃん達は最高の家族だよ。鈴やんと、ななちゃんと、まーちゃんと・・・いつも憧れてる。」


 軽率な自分の言葉を後悔しました。彼女たちは理想の家族のような存在でした。


「ゆりかさん、ゆりかさんが過去にどんなことがあったかわからないし、無理に聞こうとは思わないけど・・・私はあなたのことを知ってる。私に見えるゆりかさんがすべてなの。だから悪く言わないで。私の大切な友達なの。そんなこと言ったら許さないから。」


 まるでアヤちゃんは怒っているかのようでした。私は何も言えなくなりました。鼻の奥がしめつけられるような感覚があり、視界がぼやけて見えづらくなりました。


「やだ、ゆりかさん、泣かないで。ちょっと・・・」


 アヤちゃんは慌てていました。私はこらえようとしましたが、次第に顔が濡れてゆくのがわかりました。


「いや、泣いてもいいか・・・いろいろ辛いことあったんでしょ?だからゆりかさんは優しいんだと思う。キズモノなんかじゃないよ。ゆりかさんはキレイだよ。」


 彼女は私を励ましたいのか、なぐさめたいのか、泣かせたいのか。私はさらにどうしようもなく涙が止まらなくて、鼻水も止まらなくて、奇妙に呼吸を乱していました。


「やだな、私も泣いちゃうでしょ・・・ちょっと待って、もう・・・あった、ほら。」


 アヤちゃんはどこからか持ってきたティッシュの箱を差し出してくれました。私はたくさん引っ張りだして、思い切り鼻をかみました。アヤちゃんも同じようにしました。ふたりでしばらく鼻をかんでいました。

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