第140話 悔恨
あの時から、月日を重ねた今の私は、あの日の自分を後悔しています。
あの日のことを思い出すと、いまでも心が痛みます。
なぜ私はあのように、冷酷で残酷なふるまいができたのか。
なぜあのように、成田さんに対して非情な裁きを下すような真似ができたのか。
いまは、後悔しているのです。
怒りに見境がなくなって、彼を傷つけ痛めつけてやりたい、そんな気持ちしかありませんでした。
まるで夜叉のように、愛から遠く離れていました。
傲慢だったと思うのです。
成田さんがどのような生き方を選んだとしても、その時その時を悩みながら過ごしていたかもしれないのです。
過去にうまくいかなかった関係があったとしても、私などが彼を責められる立場ではなかったはずなのに。
あの頃の私は愛人という立場を経て、それからめぐり合えた成田さんに身も心も捧げたい気持ちでいました。
須藤の愛人だった頃、私は彼に愛されていると信じていました。須藤は彼なりの、できる限りの形で私を愛してくれたと今も思っています。
それでも私は傷つかずにはいられませんでした。
あの時の成田さんが、思いもかけず須藤と重なり、私は愛人だった自分を思い出し、半狂乱になりました。
かつての自分の傷が思わぬ形でえぐり出され、私は絶望しました。
ですがそれは、私の後ろ暗い過去のせいでもありました。
成田さんは私を愛人にしようとしたのではなく、過去に家族になろうとした人達との別れを選んでいたと思われます。ですが彼のその選択もまた受け入れがたい気持ちがありました。
とりわけ彼の子どもに対するあり方には、拒絶感でいっぱいになってしまったのです。
私が潜在的に望んでいたもの、憧れていたものとは遠いあり方だった彼を目の当たりにし幻滅したわけですが、それでも、あんな風に成田さんを非難するべきではなかったのに。
いまならそう思うのです。
私も多くの失敗や、罪を犯している人間です。
人に言えない、恥ずべきことをたくさんしてきました。
そんな自分でありながら、怒りに我を忘れ、彼を責めたて断罪するなどと。
あまりに愛から遠く、罪深く、心のない人間でした。
私には後悔していることが多くあります。
ですが、当時はそのようには思えずにいました。
後になって気付けるようになるまで、もうしばらくの時間が必要でした。
そうなれるまで、助けて寄り添ってくれた人もいました。
その後の私のことを、もう少しだけ書こうと思います。
いまの私には、愛すべき人たちがいます。
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