第136話 隠し事
ある休日、成田さんの家で過ごしていました。この日は彼に教わりながら一緒にパン作りをしました。初挑戦でしたが意外と楽しく、全粒粉やクルミの入ったおいしいパンを焼くことができました。
成田さんは煮込みハンバーグとサラダも準備してくれて、いつもながらおいしく幸せなひとときを過ごせました。食事の後もソファーでワインを頂いていました。
「そういえば、この前隼人さんのこと見ましたよ。バスセンター近くのカフェで。あそこはレッスンでは使っていませんけど、前から気に入っていて、たまに行くんです。」
「え、いつの話?カフェなんて行ったかな・・・?」
成田さんはすぐには思い出せない様子でした。
「3日か4日前だったか・・・隼人さんでしたよ。相手の方はきれいな女性で、2歳か3歳ぐらいの、すごく可愛らしい子も一緒で。でもなんだか難しそうな顔していて、声かける雰囲気じゃなかったので・・・」
そう話していると、成田さんの顔がこわばっていました。ひどく怖い顔つきになり、もしかするとまずいことを言ったのかと当惑しました。
「ゆりか、あの時の店にいたの・・・?そうか・・・気付かなかったな・・・」
成田さんは目を伏せ、自嘲するかのような顔つきになりました。そうして眉を寄せ、黙り込んでしまいました。私はだんだん不安になってきました。
「隼人さん、あの人はどういう方だったの・・・?」
恐る恐る尋ねました。成田さんはけだるそうに私を見返しました。
「ゆりか、落ち着いて聞いて欲しいんだけど・・・私とゆりかの関係が変わることはないから。」
その奇妙な前置きに、私はますます不安に駆られました。
「あの人はね、私の子どもの母親なんだ。いずれ話さなくてはと思っていたけど・・・もっと、先のことにしたかった。私に子どもがいるということはまだ言ってなかったね・・・」
憂鬱そうな、心配するような表情で、私を落ち着かせるかのように彼はゆっくりと言葉を発していました。
わけがわかりませんでした。目の前の、愛する人の言っていることが。
頭のどこか遠くから響いているようで、まるで理解しかねていました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます