第134話 憧れ

 時に成田さんと衝突した理由のひとつにナミさんの存在がありました。成田さんが怒ったように、私はナミさんに惹かれる気持ちを隠し持っていました。ですが成田さんを裏切ろうと思ったことはないのです。


 ナミさんにサポートされながら初の貸家を購入し、修繕の際にも非常に助けられていました。私の初めての貸家は小ぶりで修繕箇所も軽めだったこともあり、異様なスピードで貸しに出すことができました。


 ナミさんや鈴さん、アヤちゃん、他の彼らの仲間にも協力してもらい、非常に作業がはかどりました。特にナミさんは、私が現地にいない日ですら作業を進めてくれていました。


 修繕が終わり、募集をかけると借り手はすぐに見つかりました。賃貸の戸建て物件は数が少なく、田舎で古い家であってもある程度きれいに直されていれば、借り手に困ることはないようでした。


 ナミさんはすぐに次の家を見つけ、私にすすめてくれました。条件の良い、程度の良い家で、例によって価格も交渉してくれていました。利回りも非常に高くなっていました。


 その頃、ナミさんの資金はすでに回復していたかもしれないと思うのですが、ナミさんはいくつかの理由をあげて私に譲ってくれました。私はもう迷わず、すぐに決断できました。


 2年で3軒どころか、半年ほどで2軒の貸家のオーナーになることができました。英語の仕事も順調で、いつしか生徒さんの数も増えていました。事務職として働いていた英会話教室では他の先生が退職したこともあり、レッスンを受け持たせてもらえることが増え、お給料も上がっていました。


 忙しすぎないペースで仕事をすることができて、収入にも困らないようになりました。毎月の貯金もできるようになり、再投資に備えていました。2軒の貸家収入のあることが、大幅に生活を安定させてくれました。


 ナミさんに、どれほど良くしてもらっていたか。彼の気持ちを感じないではいられませんでした。私がナミさんの他人に尽くす優しさや純粋さを好きになるのは仕方のないことでした。彼が持つ人としての性質の美しさを認め、憧れるのは自然な想いでした。


 ナミさんに気持ちを悟られまいと努力しましたし、彼が私を性的な対象として働きかけることはありませんでした。私が成田さんと交際していると知りながら、関係が不穏になるような行動などないはずでした。


 私と成田さんの関係をナミさんは既にご存じであることを成田さんには伝えていました。相変わらず成田さんは、私がナミさんと過ごすのを快く思ってはいないようでしたが、ナミさんのことは信頼しているようでした。


 その後も成田さんとは衝突したり、彼のご実家について敬遠したくなる気持ちや将来についての懸念はありました。ですが私がパートナーとして愛する男性は成田さんだけであり、どうあっても私は成田さんと離れがたく感じていたものです。


 ですが、その関係が壊れる時が近づいていました。ナミさんのせいではなく、もっと別の理由からでした。

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