第130話 恋愛観
「杉山君なんて、この前彼女とどこ行ったとか、しゃべり出すんですよ~もう、若いっていいですよね!」
英会話レッスンの時、杉山さんがフリートークで話したことが話題にされました。お酒も入り、早川さんは機嫌よくおしゃべりしていました。
「ほんとに、彼女さんと仲良しみたいで羨ましいです。私が杉山さんぐらいの頃ってどうだったかな・・・あ、結婚してた頃か・・・」
何気なく思い出してみましたが、結婚後勤め先を退職し、主婦をしていた頃がひどく昔に思えました。
「ゆりか先生もまだ若いですって!最近どうなんですか?再チャレンジはしないんですか?」
早川さんから痛い質問をされてしまいました。
「え~~、だって、失敗してますから・・・ってこの話題は、私じゃなくて・・・杉山さんは、彼女さんとご結婚を考えているんですか?」
立ち入った質問とは思いつつ、早々に矛先を変えなくては都合が悪いのでした。
「えっ・・・そう言われても、まだよくわかんないです。でも彼女はどうなのかな~ちょっと年上だから・・・僕はまだあまり考えたくないんですけど。」
どうということもない風に杉山さんは答えました。
「やっぱり男ってあまり結婚に前向きじゃないんですかね?うちも、もう昔のことですけど、夫は腰が重かったし・・・ゆりか先生の時はどうだったんですか?」
愚痴をこぼすように早川さんは尋ねてきました。
「え~・・・そうですね。学生の頃に付き合っていて、お互い社会人になってから・・・という感じでしたが。でもやっぱり、少しやきもきしたかもしれません。って私のことはいいじゃないですか。結局別れてますし・・・」
いまだに、離婚したことはコンプレックスでもありました。
「じゃあ、ナミさんは?って聞いちゃだめだったかしら?」
早川さんは質問の相手を変えましたが、声に笑いを含んでいました。
「ナミさんは平面の女性達が好きですよね?相変わらずエロ漫画をご愛読ですか?」
杉山さんがからかうように言いました。初めて知り合った頃、ナミさんは大人向け漫画の鑑賞が趣味と言っていたのを思い出しました。
「いや、最近は読んでなかったから、バナー広告が男同士の絡みになってた。読むのをさぼるとそっち系を勧めてくるのかと思ったけど・・・」
相変わらずナミさんは良いネタをお持ちだと思いました。
「え、そうなるんですか?ナミさんのスマホの広告見てみたいです。」
吹き出しつつ尋ねてみました。一体どんな広告の絵になっているのかと興味をひかれました。この場でナミさんはいじられ役かもしれませんでした。
「っていうか、なんでここで、ワタシのこと堕としてるんですか?ワタシだって三次元の女性ぐらい知ってるけど。」
ナミさんは気を悪くした様子もなく言い返しました。
「えっ、ナミさんそんなことになってましたっけ?」
杉山さんがひどく驚いたような声を出しました。そのリアクションも失礼すぎるのではと思いました。
「そりゃあ、早川さんとか、ゆりか先生も現実世界の女性だし、まったく接点ないわけじゃないでしょ。」
杉山さんと早川さんが目配せをしていました。
「それ言ってて辛くないですか?なんかもっと・・・いや、もういいです。成田さんは?もてそうですよね。」
杉山さんはナミさんからすぐに成田さんへ話題を振っていました。ナミさんのことも、もう少し聞きたかったのに・・・と思いました。
「うん・・・まあ、全然出会いがないってこともないと思うけど。そこらへん出歩けば、それなりに・・・なにかはあるでしょ。」
響きのあるかすれた声を、久しぶりに聞いた気がしました。ゆっくりとした口調で、たまに話したかと思えば余裕の発言でした。ですが成田さんならば、世界はそのようになっているかも知れないと思いました。彼と知り合った頃、私はひどく警戒していたのを思い出しました。
どうせ、いくらでも女の人の方から寄ってくるんでしょう?
そう噛みついてやりたい気持ちになりました。
「そんな、出会い転がっていますかね。格差感じますけど・・・でもワタシは、たくさんの人とお付き合いしなくてもいいな。ひとりの女性をどれだけ深く愛せるか、そこを大事にしたいです。」
ナミさんの恋愛観を、初めて聞いたような気がしました。
「あっ、ナミさん、いいこと言った!もてない人の言いぐさっぽいけど、いいんじゃない?」
早川さんがからかうように言いました。
「私は、ナミさんの感性は素敵だと思います・・・選ばれた女性は幸せじゃないですか・・・?」
ナミさんの言葉に感動していました。そう言えば、ナミさんに似ているのび太君も・・・幼馴染のしずかちゃんを、長年思い続けていたことを思い出しました。
「いや、重くないですか?それにこんなこと言ってるけど、基本二次元にお住まいのようですし、むしろ痛々しいんじゃないですか?」
杉山さんは毒舌すぎると思いました。手厳しいことを言われがちでも、私にはナミさんの言葉が響いていました。
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