第129話 送別会
成田さんの会社から、皆で歩いてその居酒屋へ向かいました。早川さんに案内され、中心部にあるビルの地下へ降りてゆきました。
「ゆりか先生、ここは来たことありましたか?おいしいんですよ!」
早川さんが楽しそうに声をかけてくれました。
「いえ、初めてです・・・会社員をやめてから、こういう飲み会って久しぶりで・・・すごく楽しみです!」
「え、そうなんですか。もっと早く誘えば良かったな~新しい先生になっても、ゆりか先生に会いたいです。またご飯行きましょうね。」
早川さんが嬉しい言葉をかけてくれました。
「本当ですか?私はカフェの教室ではこの辺にも来てますから、タイミング合えばご一緒できたら嬉しいです!」
階段を降りると、のれんを掲げた大人びた店構えのお店がありました。
「成田で予約したんですが・・・」
杉山さんがお店の方へ声をかけました。中へ通され、奥にあるお座敷の方へ案内されました。広い個室や小さめの個室など、プライベート感のある座席になっているお店のようでした。
「素敵なところですね・・・すごく落ち着く感じします。」
「ゆりか先生は真ん中ね。あとは皆さん、適当に座って下さい。」
隣に早川さんと、反対側の隣にナミさんが来ました。成田さんと杉山さんは、それぞれ向かいの席へ座りました。
思いがけず、このメンバーで飲みに来るとは奇妙な感じがしました。成田さんとは何度もふたりで外食したことがありましたが、ナミさん以外は私と成田さんが付き合っていたことは知らないはずでした。
皆さんそれぞれ飲み物を注文し、お料理も主に早川さんがあれこれと決めたようでした。この中では一番年長で、頼りになる年上の女性でありがたい存在でした。
飲み物が運ばれると、早川さんは成田さんへ声をかけました。
「じゃあ、成田さん、今日のあいさつをお願いします。」
「え・・・もう、ここまで来たら早川さんお願いしますよ。なんかやりにくいし・・・」
照れたような、困ったような口調で成田さんは返事をしました。
「だめですよ。成田さん社長なんだから、しっかりして下さいよ!」
まるで叱るように早川さんはたきつけていました。
「もう・・・参ったな。それじゃ・・・ゆりか先生、今までありがとうございました。みんな淋しがっているけど、たまに会社にも遊びに来て下さい。じゃあ、乾杯。」
やはりやりにくかったのか、手短な感じがしました。その挨拶は早いとか、短いとか、社員の方達がぼそぼそ呟いていました。それでも乾杯をすると、皆さんあれこれと話し始めていました。
成田さんはあまり話すわけではなく、他の人の話すのを聞いていました。仕事ではあれこれお話しするのでしょうが、こういう場では控えめなのか、言葉少なめにお酒を飲む姿を私はそっと盗み見ていました。私もそれほど話す方ではありません。他の人の話を聞く方が落ち着くのでした。この時も、成田さんと言葉を交わしてはいませんでした。
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