第127話 未読

 まさか、読みもしないなんて・・・


 返信があるかどうかはともかく、せめて既読になればと思っていたのに彼の態度はあんまりでした。私は怒っていました。これまでも成田さんにメッセージを送ったことがありましたが、普通に読んでくれたはずでした。


 今回は、故意に読まないままにしているのだろうと想像できました。せっかく勇気を出して連絡したのに、無視するなんて・・・理解しがたいことでした。


 電話をしたり、会いに行ったりする気持ちにもなれませんでした。とにかく彼は、私のメッセージを読むつもりはないようでした。


 ずっと、このままなんだろうか・・・私から距離を置いたまま、無視し続けるつもりなのかと悶々としていました。


 そうこうしているうちに、成田さんの会社での最後のレッスンの日が訪れました。会社へ行けば成田さんに会えるはずだと思いました。


 夕方になって彼の事務所へ出向きました。早川さんがいつもの学習スペースへ通してくれました。


「ゆりか先生、今日で最後だなんて信じられないです・・・せっかく楽しかったのに。ゆりか先生が来なくなるなんて淋しいです・・・」


 早川さんや、他の方達もこの日で私のレッスンが終わることをご存じでした。


「私もこちらのレッスン、楽しんでさせてもらっていました。早川さん達に会えなくなったら私も淋しいです・・・でも、外国人の先生が引き続き教えてくれるそうですし、ますます上達できると思います。それも楽しみですね。」


 彼女はいつも熱心に参加してくれていたので、お別れするのは残念でした。不動産に関するお話も、もっと聞きたいことばかりでした。


 私は会社にいた人達を見回しましたが、ナミさんや杉山さんは見かけましたが成田さんの姿はありませんでした。席をはずしているのかと思いましたが、しばらく時間が過ぎても彼を見かけませんでした。


 そして、成田さんは事務所にいないのだろうと気付きました。私と会うのを避けるように、外へ出ているのかと思い当たると泣きたい気持ちになりました。私がここに来る最後の日まで、逃げ回るみたいにするなんて・・・


 言いようのない失望に沈んだ気持ちになりました。


 レッスンの時間になると、いつものメンバーであるナミさんと杉山さんも来てくれました。ナミさんが気遣うように私を見た気がして、また心弱くなってしまいそうでしたが、極力なんでもない風に振舞いたいと思いました。


「今日で、私のレッスンは最後になります・・・そして今日は、全部フリートークにします。トピックはここに準備していますので、まずはそれぞれ読んでみましょう。それから皆さんに、好きな話題を選んでお話ししていただきます。この中にない話題でも勿論かまいません。」


 そのように伝え、複数のトピックの書かれているプリントを配りました。


「え~、全部フリートークは大変かも・・・無口になっちゃいそう。」


 早川さんが気乗りしない様子で苦笑いしました。


「日本語を混ぜてもいいんですよ。英語ではどう言うのか、直していきますね。」


「緊張するな~・・・でも、僕はこの話題いけます。最近のことを話せばいいんですよね?」


 杉山さんは、意外と積極的でした。


「え~、なになに?杉山君、なにか良い事あったの?いいよ、いっぱい話して!」


 早川さんが身を乗り出し、楽しそうに言いました。


「ちょっと、早川さん・・・ハードル上げないで下さい。じゃあ、いきますね・・・」


 杉山さんは渋る表情になりましたが、英語で話し始めました。レッスンを始めた頃よりずっと、自然で慣れた口調になっていました。

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