第118話 恐怖感
「ゆりかサン、ひとりでやろうとしなくても良いじゃないですか。今までワタシ達もゆりかサンに手伝ってもらっているし、ゆりかサンが貸家デビューするなら喜んでお手伝いしますよ。」
ナミさんは気軽な調子で言いました。
「でもやっぱり、私には無理かもです・・・ナミさんや鈴さんに比べると、私のできることはごく限られていると思い知らされます・・・」
ナミさんの言葉は嬉しかったのですが、かといっておいそれと手を出せる気はしませんでした。
「そんなにびびらないで下さいよ。ワタシや鈴やんのできることは、全部ゆりかサンのできる事だと思っていいですよ。アヤちゃんもいるし、サポート体制は整っていますから。」
私の不安をよそに、ナミさんはこの家を気に入ったようでした。私から見ても、貸家にするにあたって好ましい条件が揃っているのはわかりました。ですが私にはまだ、勇気が足りませんでした。
「ナミさん、すごく有難いですし、この家は条件も良いと思います。でもやっぱり怖いんです。私もナミさんや鈴さんみたいにしたいと思っていたのに、いざ買おうとなったら、こんなに怖い気持ちになるなんてわかっていませんでした・・・」
望んでいたものを差し出されているのに、言い知れぬ不安にすくんでいました。それまでナミさん達のお手伝いを続けていたのも、彼らと過ごすのが心地よかったからであって、本気で家を持つことなど望んでいなかったのかもしれないと心をよぎりました。
ナミさんには申し訳なく思いましたが、断るつもりでした。
「・・・ゆりかサン、不安になっていますね。そういう気持ち、むしろ普通です。最初の一軒めって半端なく怖いんですよ。そうですよね・・・ワタシも忘れていたけど、たかだかウン十万の家なのに、契約するときはびびっちゃって仕方なかったです。そうだった・・・」
思い出すようにナミさんは言いました。
「ワタシが先走ってしまったかな。この家は正直おすすめだけど・・・ゆりかサンの不安なことについて、もう少し話し合った方が良いかもですね。」
考え直すかのように告げられました。せっかくのナミさんの気持ちなのに、自分は何をしているのかと思いました。自分の不甲斐なさが情けなく、申し訳ない思いでいっぱいになりました。
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