第116話 業者さん

「着きましたよ。先に業者さん来てますね。」


 その家の前にはすでに別の車がありました。見たところ小ぶりの一軒家でしたが、駐車スペースは2~3台ほどありました。


「なかなか良さそうな感じですね。行ってみましょうか。」


「はい・・・」


 ナミさんに促されましたが、私はほとんど気もそぞろでした。私が買うためだと言われてしまうと怖気づいてしまって、本当は気が進みませんでした。ですがナミさんは車を降りて家の周りを歩いて見回っていました。中へ入るより先に、彼はいつも外観からあれこれとチェックしていました。


「うーん、換気扇がいくつか壊れているけど、あれは替えられるし、窓回りも一部コーキングかな。なんとかですね。駐車場も広いし、これは期待かもですよ。」


 ナミさんはあれこれチェックしていましたが、自分だけでは未だどこが見るポイントなのかわかりかねました。


 外回りを一周して見終えると、ナミさんは慣れた様子で玄関ドアを開けて中に入りました。私は彼の後をついてゆくばかりでした。


 玄関の中に入るとすぐに業者さんが出迎えてくれました。


「浪川さん、ご無沙汰しています。しばらくご連絡できなくてすみませんでした。最近、なかなかいいのが出てこなくて・・・」


 ナミさんと同年代ぐらいの男性が足元に並べられていたスリッパを勧めてくれました。


「いえいえ、いつもありがとうございます。川谷さんのおすすめはいつも手堅いから期待しています。でも今回はワタシが買うんじゃなくて、この方が物件を探していて・・・こちら、桜井さんです。」


 ナミさんが私を紹介してくれましたが、内心ひどく慌てていました。


「あ、初めまして。桜井と申します・・・ちょっと、まだ購入できるのかなんとも言えませんが、とりあえず見せていただきたくて・・・」


 緊張して舞い上がっていましたが、なんとか挨拶をしました。


「そうなんですね。まあ、まず見てからだと思いますよ。浪川さんが見て良さそうなら、いけるとは思いますが・・・どうぞご覧になって下さい。あ、私は浪川さんとは何度かお仕事させていただいております。よろしかったら。」


 川谷さんはにこやかに受け答えしつつ、名刺を差し出してくれました。


「ありがとうございます。私、名刺は持っていないのですが・・・ナミカワさんに勉強させてもらっているところです・・・よろしくお願いいたします。」


「では、さっそく見せていただきますね。ゆりかサン、行きましょうか。」


 ナミさんはさっさとスリッパを履いてリビングルームの方へ入ってゆきました。私も急いで後についてゆきました。

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