第114話 急な話
「今日は現地へ行く前に、ひとつ見に行きたい物件があるんですけど良いですか?ワタシのいまの家からも遠くないんですよ。」
その日、例によってナミさんの貸家へ向かっていると、車の中で告げられました。それまでもナミさんや鈴さんが購入を検討している物件の内覧へお供したことがありました。期待外れのこともよくありましたが、物件を見に行くのは好きでした。
「そうなんですか。今の家の近くならやりやすそうですね。土地勘もあるでしょうし。」
何気なく返事をしましたが、ナミさんは運転しつつ私をちらりと見ました。
「そうですね。でも今日の家はゆりかサンにどうかなと思って。しばらく探していましたが、今日見に行くのは有力候補になると思いますよ。」
ナミさんの言葉に何事かと思いました。私もいずれは収益物件を持ちたいとは考えていましたが、想像していたよりも急なタイミングでした。
「ちょっと待って下さい。私はまだ、できないことも多すぎますし・・・ナミさんや鈴さんのお手伝いをしながら経験を積みたいと考えていたんです。自分でオーナーになるにはまだ早すぎますから、良さそうならナミさんや鈴さんが買った方が良いと思います。」
少し焦って伝えました。私が、貸家を持つ・・・?いずれはそのつもりではありましたが、実際に提案されてみると、まるで心の準備ができていませんでした。
「そうしたいけど、ワタシはもうおカネが足りないので・・・今の家が終わったら、しばらく休んで資金の回復を待たないと次に行けないんですよ。鈴やんも在庫を抱えているから、今のところは手を出したいわけじゃないらしいです。」
ナミさんは苦笑いして答えました。
「えっ、そうなんですか・・・どうしよう・・・私はまだ、そんな段階じゃないと思うんですけど。」
ナミさんの言葉に動転していました。自分があの類の古家の修繕へ取り組むなど、考えにくいことでした。いつかは・・・と心に描いてはいましたが、まだ数年は先のことだと思っていました。
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