第112話 成田さんの背景
「あの、よくわからなくて・・・ご実家のことや、子どもと言われても・・・結婚をしないのに子どもが欲しいというのも、私には理解しがたくて・・・」
なんとか、そのように伝えるのが精一杯でした。
「うん、それもわかるよ。ただ実際、家の稼業や資産、家族の問題でね・・・私が結婚をするのは難しい状況なんだよ。ゆりかに問題があるわけではなくて、ゆりかに限らず、誰であったとしても。でも私はこれからもゆりかと一緒にいるつもりだし、もし私達の間に子どもができたなら、もちろん認知はする。生活費も、養育費も、なにも心配しなくて良いから。」
成田さんは静かに、諭すように話し続けました。やはり、事実婚のことを言っているのだろうかとおぼろげに感じましたが、まだ気持ちがついてゆかないのでした。
「子どもは、男の子がいいな・・・もちろん、女の子がいてもいいけど。ひとりは男の子が欲しい。」
ふと思いついたように、成田さんは話すのでした。
「ちょっと、待って・・・私は・・・結婚もせずに子どもを産むという状況が私には怖いです・・・正直ついていけません。隼人さんのことは好きだけど・・・」
たまりかねて私は気持ちを漏らしました。まだやっぱり、成田さんのこともよくわからない。
互いにしばしの沈黙がありました。成田さんはいつになく難しい表情で、暗い眼差しを向けられました。
「私は真面目に、正直に話しているんだよ。ゆりかには理解しがたいことだったかもしれないけど。」
彼は心外そうでもあり、失望の色がありました。私の拒絶感を感じ取っていたのでしょうか。ですがあまりに突然で、受け入れがたい話でもありました。
「・・・私と一緒にいるのは普通とは少し違うかもしれないけれど、考えてみて欲しい。ゆりかの心配なことについては、これからも話し合えるから。」
確かに成田さんは正直な人だと思っていました。時に変わったことや、きつい物言いをするときもありましたが、そういう彼の一面も嫌いなわけではありませんでした。
驚かされることもありましたが、彼なりに素直な、率直な面なのだと考えていましたが・・・
ですがこの時ばかりは、彼を理解するのは難しいかもしれないと感じていました。
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