第111話 将来

「そうか、結婚ね・・・ゆりかは、考えたことがあったのかな?どちらかと言えば、そういう考えではなさそうだと思い込んでいたから・・・でもきちんと、話すべきだったかもしれないね。」


 微妙な顔つきになった成田さんを前にして、内心戸惑っていました。


 私は、本当は、期待していたのだろうか・・・?自分でも、私はもう結婚したい気持ちなど起きないだろうと考えていたものでした。


 彼に尋ねたことを後悔していました。聞かない方が良かったのかもしれない・・・それとも、もっと早く知るべきだったのか。彼は私との将来について、具体的には考えていなかったに違いないのでした。


「私は、結婚はできないんだよ・・・実家や親戚があれこれとうるさくてね。家や私自身の資産と債務、連帯保証の問題があるから、誰かと籍を入れるようなことは正直考えられない。好きになった人に、家や会社のことで苦労もさせたくない。もしかしたら、ゆりかならなんとか、家や親戚ともやっていけるかもしれないけど・・・」


 決まり悪そうに、声を落として成田さんは告げました。私の顔を見ていなくて、視線を落としていました。


 彼は、私との結婚を考えもしなかったのだと知らされ動揺しました。いろいろわかりかねました。自分の気持ちも・・・私は結婚など、もう二度としたくはないと思っていたはずなのに、この期に及んでショックを受けている自分にも驚きました。


 そして成田さんのご実家や資産と債務、とは借金についてなのか・・・詳しいことはわかりませんが、なにやらひどく厄介そうだと感じざるを得ませんでした。


「私とゆりかは、ふつうの結婚という形にはならないと思う。ただ私は、ゆりかとこれからも一緒にいたいし、家族のようになりたいとも思う。ゆりかが私の子を産んでくれたら・・・」


 成田さんはそっと私を見やり、思いがけない言葉を放ちました。私はまた驚きましたが、彼は真剣な面持ちでした。


 すぐに理解ができませんでした。結婚するつもりはないのに、子どもを産む話になっているのはどういうことなのか。あらためて、成田さんが不可解でした。


 もしかすると、いわゆる事実婚という形について話しているのだろうか?


 子ども・・・?


 いろいろ突拍子もない話に頭も心もついてゆけそうにありませんでした。

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