第108話 ナミさんへの思い

 ことの後、と言うよりその前からも、すでに優しい成田さんに戻っていました。喧嘩をして、仲直りをするときの男女はとりわけ情熱的である気もします。この日は成田さんの愛情がいっそう感じられたのも事実です。


 それでも、成田さんが嫉妬するなんて・・・ナミさんに?


 考えにくいことでした。成田さんほどの男性が、他の人に、自身の部下であるナミさんに妬くなんてことがあるだろうか?


 大体、ナミさんと私はそのような関係性ではないのに。誤解もいいところだと思いました。


 ナミさんのことを良い人だと思っていました。知り合った初めの頃は、なんとなくわかりにくい人だと感じたものでした。ですが古民家修繕の場へ訪れるうちに、少しずつ彼のことがわかってきました。


 いつも仲間のことを思っていて、自分以外の人をいつも助けていて・・・もちろんナミさん自身も仲間から大事に思われていました。


 誰に対しても優しい人だと思います。子ども達にも・・・ナミさんが鈴さんの子たちや他の子どもが来た時、楽しそうに遊んでいる姿が好きでした。自分が子どもと積極的に関わる方ではないので、子ども好きの人を見ると憧れます。鈴さんも子どもをよく可愛がっていて素敵ですが、ナミさんは自分の子じゃなくともあのように接している姿を見ると、さぞかし良いお父さんになれそうだと想像します。


 ナミさんの、お友達の多いところも好ましく映ります。鈴さん一家と関わることが多いのですが、他の仲間の手助けをしたり、彼の物件を手伝いに来てくれる友人も多くいます。率直な話し方や彼のユーモアも好きです。細くて色白でひょろりとした見かけの割に、力仕事や汚れ仕事も平気でこなします。いろいろギャップのある人です。


 作業の時にいつも音楽をかけてくれますが、彼の選曲が楽しみです。どこから取り入れるのか、奇妙に古い昭和の歌謡曲が私のお気に入りです。往年の大物ミュージシャンの名曲とともに仕事をする時間も好きです。曲やアーティストについて尋ねてみると、何枚かのCDを譲ってくれました。


 ナミさんは、最初は私が不動産に興味があると言ってもあまり信じていないようでした。ですがお手伝いをしているうちに、とても親身に接してくれるようになった気がします。


 近頃は私が物件を購入する場合のシミュレーションをよく考えてくれて、物件探しを手伝ってくれます。というよりもほぼナミさんが主体的に情報を送ってくれます。私は自分ではまだ時期尚早と思うのですが、彼はお仕事柄のせいか情報収集も非常に熱心です。


 私はナミさんをとても信頼していて、一緒に修繕の仕事をしたり、仕事以外にも物件の内覧へ出向いたり、行事を混ぜつつ遊びがてらにつるんでいるのも好きでした。ナミさんといるのは心地よい時間でした。


 言葉であらわすことはなかったものの、ナミさんのことがとても好きでした。


 そのように彼を想っている自分を振り返ってみたとき。


 成田さんの私に対するあの態度は、それほど誤解ではないのかもしれないと気付かされました。

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