第106話 体のあざ
幸い怪我は大したことはありませんでした。少しの間痛みはありましたが、どこも折れたりはしていませんでした。
自宅で自分の背中をよく見てみると、背中や肩、二の腕の裏などに複数の赤い痕がついていました。触ると痛みましたが、いつかは治るだろうと思いました。
数日後、成田さんに会った日のことです。仕事の後、彼の家で一緒に食事をしました。前日から準備していたというお料理をふるまってくれました。牛肉の赤ワイン煮込みとサラダ、自家製パン、デザートにはプリンまで作ってくれていました。
とても素敵な夜でした。身近にお料理のできる男性を知らなかったのでいつも心を掴まれていました。ですが成田さんはそれだけではなく、優しくて見た目も素敵ですし、語学堪能で経験豊かで、申し分なく経済力もあり・・・お付き合いしているのが奇跡のようだと日々実感していました。
彼と会うときはそれなりに恋人らしいこともするので、この日もソファーでお茶をいただきながら、やがて互いに触れ合ったりもしていました。いつも幸せなひとときでしたが、ふと彼が怪訝な顔をしていて、様子がおかしいことに気付きました。
「ゆりか、ここはどうしたの?背中になにかついてる・・・肩のところも?」
先日脚立が倒れた時の背中の痕に気付き、彼の声音が変わりました。彼は私を後ろ向きにさせ、さらにじっくりと調べるように見ていました。
「いくつか、なんだか青黒くなっているけど・・・なにかあった?」
ただならぬ表情で、詰問するように尋ねられました。
「ああ、それは・・・この前、ちょっと脚立を倒してぶつけてしまって。でも大丈夫ですよ。もう痛くないですし。」
私にはもう過ぎたことでした。気にするようなことでもないと思っていました。
「脚立を、倒して、ぶつけた・・・?危ないじゃないか。傷が残ったりしたら・・・」
口調が鋭くなり、彼は怒っているかの様子でした。思わぬことで少し驚きましたが、そんなに目くじらを立てることもないのにと思いました。
「例の、古家の修繕で?まったく、何をやっているんだか・・・」
成田さんは険しい顔をしてため息まじりに呟きました。たしかに私の不注意でしたが、そんなに不快そうにしなくても良いのに、と面白くない気持ちになりました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます