第104話 修繕仲間
それでも皆さん、四六時中あくせくと働いているわけではありません。仕事と言えば仕事ですが、どちらかと言えば趣味の集まりのような側面もあります。丸一日を真面目に作業しているかと言えばそうでもなく、仕事はそこそこに他の行事も混ぜつつ楽しんでいる日もあります。
廃屋に近いような古民家の古さと汚さを活かし、修繕前ならばと屋内で焼肉をしてみたり、投資用物件の内見にからめ、その地域で楽しめる果物狩りへ行ってみたり、山菜取りへ行く人もいます。穴場的な観光スポットを訪れることもあり、楽しみを混ぜながら活動していました。
ある時は修繕完了の打ち上げがてら、札幌近郊の街にある遊園地にも出かけました。鈴さんの子ども達がいたためですが、初めてそこを訪れた私は感動しました。
本州には全国的に有名なテーマパークがいくつもあり、セレブなねずみの支配する有名どころも憧れますが、北海道からは遠く、行くだけで費用も時間もかかります。園内も広すぎてアトラクションへの移動も時間と体力がいりますし、待ち時間も相当なものです。
それに比べると地元の遊園地は規模も小さく素朴ですが、気候の良い行楽日和でも混雑しすぎず、待ち時間もほとんどないのでした。古さは否めませんがアトラクションも充実しており、絶叫系のジェットコースターや、そこまで怖くない乗り物、ゴーカート、お化け屋敷、観覧車等、一般的な遊園地らしい乗り物は揃っていました。
私は海賊船が楽しくて何度も乗りました。ななちゃんやまーちゃんは小さいので乗れませんでしたが、ナミさんが付き合ってくれました。でも本当は怖かったようで、うずくまるように下を向いて硬直していた姿がおかしくて爆笑しました。
その遊園地のとりわけ素晴らしいのは豊かな緑に囲まれた景観でした。長く札幌に住んでいましたが、車で1時間ほどの距離にこれほど楽しい場所があったとは知りませんでした。大人になってからは遊園地など、行く機会のないものでしたがお子さんのいる仲間のおかげで新たな発見でした。
私は修繕仲間たちに愛着を覚えていました。鈴さん以外にも小さなお子さんのいる方もいて、古家へ援軍に来て、その子ども達も数人募るとかなりにぎやかになります。子ども達が駆け回って騒いでいても、誰も怒る人はいません。子ども達はすぐに興奮して盛り上がり、小さな酔っ払いのようです。飲んでもいないのにそのテンションは愛すべき姿に映ります。
私は幼い頃親戚に恵まれていて、似たような年代のいとこたちとよく遊んでいました。子どもが他の子どもと長く一緒にいられる環境は振り返って思えば宝のような時間でした。夜も一緒にいられるときはさらに特別でした。可愛がってくれる大人たちに囲まれていたことも幸せでした。ここで会う子達を見ていると、そんな懐かしい昔を思い出すのでした。
私は子どもがあまり好きではない気がしていましたが、沙也の子の創太や鈴さんの子どもたち、他の仲間の子たちと接するうちに、少し気が変わりました。馴染みのある子どものことは好きかもしれないと思うようになりました。
会う機会の多い鈴さんの子たちはふたりともかわいいのですが、お姉さんのななちゃんは愛らしいルックスの割に野太い声というそのギャップが好きでした。5歳という年齢ながら、すでに女子らしいトークを繰り広げます。「ゆりかさん今日の髪かわいい。」とか、「そのバッグかわいい。」などと、なにかと見つけて褒めてくれます。
弟のまーちゃんはあまりしゃべらないのですが、話したときのゆっくりさ加減と、よく耳を傾けなければ聞こえない、ささやくような小さな声の愛らしさに心しめつけられます。それでもいつかは彼も、ぺらぺらと流暢に話すようになるかと想像すると心苦しくなるほどです。作業の間はそれほど構っているわけではありませんが、静かにそばにいるような彼の存在に癒されています。
修繕仲間たちの空気感が好きでした。みんなのことが大好きでした。成田さんとお付き合いをするようになって通う頻度は少しだけ減らしてもいましたが、私の大切な居場所のひとつであることは変わらないのでした。
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