第103話 修繕活動
古民家修繕で私の好きな作業はいくつかあります。壁紙を貼るのはお気に入りのひとつですが、ペンキを塗る作業もまた好きです。床へのワックスがけも綺麗になるので楽しい仕事です。
この頃はすでに気候も良く、外壁のペンキ塗りや屋根塗りの作業もありました。初めの頃は鈴さんやナミさんしか外の作業をしていませんでしたが、私もペンキ塗りをしたいと主張しこのところは屋根のペンキ塗りにも参戦していました。
この時はナミさんの物件をお手伝いをしていたので、ナミさんは私に新しいつなぎの作業着を購入してくれました。以前はジャージの上下でしたが、すぐにペンキで汚してしまいました。汚れたジャージでも構わなかったのですが、つなぎの作業着を着るとそれらしい気分になるものです。
その作業着もすぐにペンキをつけてしまいましたが、綺麗な作業着というのも味気のないものです。私もナミさんや鈴さんのように、色とりどりのペンキで染まった作業着にするのが目標でもありました。
屋根にのぼるのは怖くはありませんでした。季節が良いと青空が気持ちよく、作業もはかどります。ナミさんがスマホと小ぶりなスピーカーで音楽をかけてくれます。奇妙に非日常的な時間と思えました。
屋根は二回以上の重ね塗りが望ましいのですが、日が落ちてくると焦ります。一度めの塗りは余裕で楽しく進めていても、食事や休憩をはさんでからの二回目は時間がなくなって大雑把になりがちです。塗り終わった後に、雨に降られてしまったこともあり、日を改めて作業し直すこともありました。
修繕が大詰めになってくると、仕上げの清掃も大変な仕事です。異様な低価格で取引される古家というものは、ほぼ例外なく積年の汚れが積み重なった妖怪のような代物なわけです。そこへ立ち向かうのは根性がいるものです。
修繕しながらある程度は掃除も兼ねて作業しますが、各部屋の窓部分や水まわりなど、汚れの手ごわいスポットが多数あります。同じところを何度拭いても雑巾は真っ黒になります。非常に体力を消耗します。
掃除道具もさまざまなものが存在します。普通は掃除道具といえば洗剤や重曹、雑巾、たわし等のイメージですが、古民家ではもっと多岐にわたります。こびり付いて厚みのある油汚れは金ベラが有効で、発掘作業に近いものがあります。
私の好きなアイテムはメラミンスポンジです。発泡スチロールにも似た白くて四角いスポンジで、少量の水をつけて、消しゴムのようにこすって汚れを落とします。
場所や汚れのタイプにもよりますが、洗剤やたわしで落ちない汚れがたやすく劇的に落とせたときは快感をともないます。ひどい油汚れなどは、スポンジがあっという間に黒くなってやせ細ってゆきます。自らを犠牲にして汚れを浄化してゆくスポンジの姿に心を打たれます。
古家の清掃は大変な労働でもありますが、夢中になっているうちに時間が過ぎてゆきます。くたくたに疲れてしまうものの、その日は非常によく眠れます。自分は文化系タイプだと思っていましたが、肉体労働というものは心身にとって健全な世界であることを知り、新たな発見でもありました。
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