第101話 交際

 その後も成田さんとは良い時間を過ごせていると感じていました。男女の付き合いでは男性が女性の家に入り浸るケースが多いと聞きますが、成田さんの家が便利な場所であったため、私が彼の家に泊まることが多くなっていました。


「今日のパスタもいいね。自分では作らないものを食べられるのは新鮮だね。ゆりかは私とは違った食材を組み合わせるし。」


 この日はネギとしめじ、オイルサーディーンの和風スパゲッティを作りました。時々私も彼の家のキッチンでお料理をするようになりました。


「それ、私もですよ。隼人さんのパスタも自分の思いつかない食材や組み合わせで。この前の、クルミとベーコンのリングイネもすごく美味しかった。隼人さんのお料理はいつもお洒落で、洗練されていて外食みたいだし・・・」


 成田さんに対して、ふたりのときは下の名前で呼ぶことが多くなっていました。お付き合いを始めた頃、彼を名前で呼ぶようになりました。もっと気持ちの距離を縮めたかったのか、親密でいたいと願ったためか、いつしかそのようになっていました。


「私はゆりかの料理も好きだよ。あれは特に好きだな・・・茄子とひき肉の・・・」


「麻婆茄子ですか。私も好きです。茄子ってどうやっても美味しいですよね。揚げびたしとか。」


「あれは絶品だね。他にも鍋とか煮物も上手だし・・・ゆりかと住んだら良いだろうね。アパート引き払って、ここに引っ越してくる?部屋も空いているし。」


 成田さんと親しくなって数カ月が過ぎていました。週に何度か会ったり、お家へ泊まったり、恋人としてのお付き合いを重ねていました。時に成田さんは、重要な事柄をあっさりと言うことがありました。


「それも楽しそうですけど・・・でもあまり軽くも決められないです。いまのアパートも気に入っていますし、借りるときはそれなりに苦労したんです。」


 実際、成田さんと一緒に住めば行ったり帰ったりしなくて済むので楽でしょうが、それもどうかと思いました。互いの家があってこそお付き合いが楽しいのかもしれず、ふたりの関係がそれほど揺るぎないものかどうか、判断するには早すぎる気もしました。


 成田さんとは、将来的な話もまだしていませんでした。私が願っていなかったわけではありません。自分の性質から言えば、先のことは考えない、今が良ければそれでいいという感覚にはなりえないのです。ですが彼にとっても、私とこの先も一緒にいるのか、わかりかねるのも理解できました。自分の方からあまり重い話題を振って疎まれるのも嫌でした。


 深いお付き合いになっても成田さんは素敵な人でした。お料理や家事もできて自立した方ですし、私のことを大切にしてくれていると感じられていました。


 彼とは良い時間を過ごせている実感はありましたが、なにか、もっと・・・はっきりした感覚が欲しいと願っていました。それは一般的に考えるなら結婚なのか、でも失敗している身で、それを願うのもおこがましい気がしました。

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