第97話 朝

「・・・ゆりか、そろそろ起きなくて大丈夫?寝坊じゃないの?」


 耳に心地よい男性の声が聞こえました。この声は、成田さんみたいだけど・・・なぜ彼が私を起こすようなことがあるかと思いました。


「・・・ゆりか!起きなくていいの?」


 男性の大きな両手が私の頬を包むように触れられました。仕方なく目を開けると、目の前に成田さんがいました。


「・・・成田さん!?ここは・・・」


 思わず体を起こし、周りを見回すと成田さんのお家のベッドルームでした。そして私は裸のままでした。


 驚いて息をのみ毛布を引っ張り体を覆いました。再び成田さんを見ると、彼は淡い色合いの素敵なガウンを着ていました。


 すごく似合うけれど、ガウンなんて着る人がいるんだ・・・と心の中でカルチャーショックを受けました。


「ゆりか、寝不足になっちゃったかな。起こすの悪いと思ったけど、仕事かもしれないと思って。もうすぐ7時になるけど大丈夫?」


 笑いをこらえているかのような表情で成田さんが告げました。


「7時?朝の7時ですか・・・?いえ、ぜんぜん大丈夫です。いつもより余裕あるぐらいです・・・」


 成田さんのマンションから、私の職場である英語教室は自宅からよりも近くなっていました。


「ゆりか、朝はパンでもいい?野菜のスープもあるし、ヨーグルトも。それとも朝はあまり食べない方?」


 気付けばパンの焼ける良いにおいがしました。


「朝食、準備してくれたんですか・・・、ぜひいただきたいです。」


 まさか成田さんが朝食の支度までしてくれたとは信じがたく、いくぶん半信半疑でした。


「それじゃ、えーと、服は・・・」


 再び辺りを見回すと、サイドテーブルの上に私の服が綺麗にたたまれていました。ひどく恥ずかしい思いをしました。


「・・・成田さん、たたんでくれたんですか。すみません、昨日は眠すぎて脱ぎ捨てちゃって・・・普段はもう少しちゃんとしてますけど・・・」


 成田さんはからかうような笑みを浮かべました。


「ゆりか、もしシャワー浴びたかったら使って。他に必要なものはある?」


 どこからか、大きめのバスタオルと、小さいタオルを持ってきてくれました。


「いえ、これで十分です・・・成田さんも朝の準備ありますよね?すぐおいとましますけど・・・」


「私は急がなくてもいいから。朝食用意しておくよ。」


「何からなにまですみません。ささっと浴びちゃいますから。」


 成田さんが部屋から出ると、急いでバスルームへ向かいました。

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