第95話 夢
成田さんのお家のベッドは大きくて気持ちが良く、すぐに眠りにつきました。後で考えれば行儀が悪かった気もします。他人のお宅へお邪魔した直後にすぐ寝てしまうのはどうかと思われましたが、この時はものすごく眠かったので仕方ありませんでした。
ベッドの寝心地は良かったのですぐに眠ってしまい、やがて夢をみていました。成田さんがそばにいて、私の頭をなでているようでした。彼の指先は私の髪にからみ、私の髪の毛で遊んでいるようでした。耳に彼の指が触れ、くすぐったく思いました。
成田さんの手は私の頬や、肩や手足をそっとなでているようでした。とても優しく、どこか遠慮がちのようでおかしな気分になりました。
私はこの人と、お付き合いしていたのだっけ・・・?それとも結婚していただろうか。夢の中でそう思い至りました。どのぐらいの期間だったか、おそらく半年ほどではなかったか。
でも確か、体の関係はなかったようだと夢の中で気付いていました。なんということか、どういうわけか、半年ほどもそうならないままでいたなんて、不思議に思いつつ驚いていました。
そして彼の奥ゆかしさにいじらしさを覚えました。私の嫌がるかもしれないことは、この人はせずにいてくれるのだと思えて感激しました。
静かに、ひそやかに触れる手が心地よく、私は笑みをうかべていました。
好きですよ、と小さく私はつぶやきました。うまく声が出なくて、はっきりとした言葉としては発音できていない気がしました。もう一度伝えようとしましたが、うまく言えた自信がありませんでした。
彼が私を気にかけてくれているのを感じていました。私も彼を好きになっているのだと伝えたいのに、うまくしゃべられなくて奇妙だと思いました。眠いせいだろうかと思い当たりました。
ゆりか、と呼ばれました。
「私も好きだよ。初めて会った時から・・・ゆりかの気持ちがそうなるまで待つつもりだったけど、もうだめかもしれないと思った。」
低くかすれた切ない声が囁きました。訴えかけるような、すがるような眼差しに捉えられていました。夢が現実のように映り、私はこんな願望を抱いていたのかと頭をよぎりました。
彼の唇が私の頬に触れ、キスをされました。それから唇にも、ゆっくりと、何度も口づけをされました。これは本当に夢だろうかと
成田さんは私の髪を引きよせ、においを確かめるようにしてから口に含みました。髪の毛は口に入れない方がいいのにと思いました。
「もう、私のゆりかだ・・・」
彼は急に、容赦なく私のアンダーシャツをまくり上げ胸をあらわにしました。豹変したかのように荒々しく、胸の先へ吸い付きました。
今度ははっきりと声が出ました。どこまでが夢で、どこからが現実であったのか。
私はもう、夢から醒めていました。
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