第89話 カフェバー

 成田さんがドアを開け店に入ると店員さんが迎えてくれました。カウンターの奥からオーナーさんらしい方も来てくれました。


「ああ、成田さん。いつもありがとうございます。お好きな席へどうぞ。」


 お店の方は打ちとけたような笑顔になりました。


 店内を眺めながら、真新しく洗練された空間にくぎ付けになりました。天井は高く開放感があり、それぞれの座席の間隔も広く心地よさそうでした。広くてソファーのある座席や、いろいろな人数に調整できそうなテーブル席、ひとりで出向くにも良さそうな広めのカウンター席もありました。


「すごい、素敵なところじゃないですか!成田さんの会社からも近いんですね。でも全然知りませんでした。成田さん、お店を見つけるのが上手ですね・・・!」


「うん、まあ近所だからね・・・オープンして間もないからそんなに混んではいないけど。存在が認知されてきたら人気になりそうだよね。」


 店中見回しながら、ときめいた気持ちになりました。飲食メニューも気になりましたが、空間だけで判断するならば間違いなく人気のお店になりそうでした。


「成田さん、ぜひこちらで教室ができたら嬉しいのですが・・・クラスも増えていますし、場所も便利で生徒さんも喜びそうです。後でオーナーさんにお話したいんですけど・・・」


「気に入ったみたいだね。連れてきて良かった。後でオーナーに紹介するから。」


 思いがけず良いお店を知ることができて嬉しくなりました。内装の大部分はナチュラルウッドテイストで女性が好みそうな空間でしたが、部分的に北欧調のカラフルな家具が配置されたスペースもありました。私は興奮して店内を見て回り、写真を撮らせてもらいました。


「ゆりか、ここはどう?半個室になっていて、教室をするのにちょうど良いんじゃない?」


 成田さんはやや奥まったところにある、他とは区切られた座席を案内してくれました。4名~6名ほどが使えそうな、プライベート感のあるスペースでした。


「ここは・・・とても良いですね。レッスンにぴったりです。他のお客さんを気にしなくて良いですし・・・なかなかこういう個室のあるお店って少なくて。そういえば、ここは禁煙ですか?」


「禁煙だったと思うけど。ゆりか、タバコ吸うんだっけ?」


 意外そうに尋ねられましたが、喫煙できるお店だとすれば教室として利用しかねました。


「いえ、喫煙OKのお店ですと諦めざるをえないので・・・禁煙ならありがたいです。良かったです!」


「なるほどね。ゆりかのチェック項目をクリアできたらいいんだけど。ここの席にしてみる?授業で使うイメージがしやすいかも。」


 このスペースの内装も他と雰囲気が異なり魅力的でした。ブルーグリーンの壁紙が素敵でたまらなく気に入ってしまいました。


「広めの席ですけど、いいんでしょうか・・・?」


「好きな席いいよって言ってたからいいと思うよ。ゆりか、そこにどうぞ。」


 成田さんは奥の席を勧めてくれました。角の奥へ座ると、成田さんは隣に座りました。また距離が近くなった気がして、内心どきどきしました。

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