第88話 近況
「なかなか時間が取れなくてすみません。ゆりか先生も忙しそうなのに、いつも来てくれてありがとう。みんなやる気になっているようだし、私も参加したいけど、ずっと忙しくて・・・」
事務所を出ながら成田さんが声をかけてくれました。歩きながら、どこへ向かうのだろうと思いました。夜の街をふたりきりで歩くのは少し緊張しました。
「こちらこそ、いつも楽しみにしています。皆さん、来るたびに英語に慣れてきていますし、早川さんや杉山さんはモチベーションが高くてやりがいがあります。優しい方ばかりで、楽しくレッスンさせていただいてます。」
成田さんとこうして話すのは久しぶりだと思いました。話しながら、少し自分はぎこちないだろうかと思いました。
「ゆりかはみんなに好かれているよね。私も一緒に英会話したい気持ちはあるんだけど、他の社員もいるとなんだかね・・・」
間近に成田さんがいて、視線を向けられるとどきどきしました。低くて少しハスキーな声が懐かしく感じられました。
「成田さんは私よりずっと、英語もフランス語もお上手じゃないですか。習う必要もないでしょうし、お仕事も忙しそうですし・・・」
「せっかく会社まで来てもらっているのに、ろくに話せないもんだね。最近はスポーツジムでもゆりかのこと見かけないし。他の仕事も忙しいの?」
「はい、まあ・・・実は、カフェの教室が増えることになって。事務をしている英語教室でもグループレッスンをさせてもらえることになったんです。おかげさまで忙しくなってきて・・・ジムにも行きたいのですが、難しくなってきました。」
加えて休日はナミさん達と古民家修繕活動もあり、仕事もプライベートも忙しく過ごしていました。
「うん、カフェの教室ね。ゆりかはカフェが好きだったよね。私も嫌いじゃないけど。この近くに新しいカフェバーがあるから行ってみる?誘いたいと思ってたんだよね。」
成田さんの申し出に気持ちが上がりました。カフェめぐりは趣味でしたし、レッスンに使えそうなお店をいつも探していました。
「そうなんですか?カフェならいつでも行ってみたいです。教室ができたらさらに良いのですが・・・」
このところ、カフェでのレッスンが増えてきて場所の確保に難儀していました。同じお店ばかり頻繁に利用させてもらうのも迷惑をかける可能性もありますし、定休日等で都合の合わない時もありました。
「でもレッスンで使えるかどうかはお願いしてみないとですし、お断りされることもあるんです。」
勇気を出してお店の方へお願いしても空振りすることもありました。あまり期待しすぎないようにしようと思いました。
「そうかな。店にとっても悪くないと思うけれど・・・これから行く店はそんなことないと思うよ。」
成田さんは軽く笑って言いました。お店でレッスンが可能かを尋ねるのはいつも緊張しましたが、彼が一緒ならば心強い気がしました。
「そうだといいんですけど。人気のお店は予約も受けてくれないところもありますよ。でもレッスンできるかどうかは別として、カフェに行くのは大好きなので楽しみです。」
「ゆりかが気に入ってくれるといいな。なかなか良い店だと思うし、いろいろチェックしてもらおうかな。」
「成田さんはよく行くお店なんですか?知り合いの方が一緒ですとお願いしやすいですし、ありがたいです・・・」
「オーナーもとても良い人だから心配ないと思うよ。もうすぐ着くよ。」
話していると、洒落た外観の建物の前に着きました。そのビルの1階がお店のようでした。
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