第87話 進展

 その頃、英語講師の仕事も上向きになっていました。生徒さんの紹介が増えてクラスの人数が増えたり、カフェの教室を増やすことができました。勤め先の英語教室でも初心者向けクラスの新設を提案され、個人レッスンに加え、グループのクラスを担当させてもらえることになりました。


 成田さんの会社でのレッスンも順調でした。休日は古民家修繕へ出向くことが増え、ナミさんとは気心の知れた感覚になっていました。相変わらず飄々ひょうひょうとしたたたずまいで、知り合ったばかりの頃は何を考えているのかよくわからない人という印象でしたが、私は彼を信頼していました。


 ナミさんの良いところは、自分が女性扱いされていると感じなくて済むところです。かつては男性から女性として見られ、時に不快な思いをしたり、期待されていると感じるのが心地悪かったのですが、ナミさんや鈴さんなど、古家修繕の場で会う人達は、互いに泥臭く働いているせいか、そのように感じなくても良い環境でした。


 とはいえナミさんも鈴さんも、アヤちゃんや私にはむやみに力のいる仕事や危険な作業はさせないので、いずれにしても女性として扱ってくれてはいるのですが、気持ち的にさっぱりとした人ばかりで、心地よく過ごせていました。


 私が緊張するのは成田さんのいるときです。彼はいつも忙しそうで不在のことも多いのですが、たまに参加する日もありました。英語も不自由なく話せる方ですし、正直なところいない時のほうが気楽です。彼の磁力のようなオーラにはだいぶ慣れたものの、ついどこか意識して舞い上がってしまうのです。


 ある日のレッスン終了後、成田さんに声をかけられました。


「ゆりか先生、この後時間大丈夫でしたか?クラスの様子も聞きたいし、今後のことで相談したいのですが・・・」


 いつになくあらたまって言葉をかけられどきどきしました。


「あ、そうでしたね。大丈夫です。この前連絡いただいてましたよね。」


 成田さんとは時にメールでやりとりすることもありました。何度か、食事に誘われた日もあったのですが、カフェでのレッスンや修繕活動、教室のイベントの日程などと重なっていてタイミングが合いませんでした。この日はレッスン後に打ち合わせをしたいとあらかじめ聞いていて都合の良い日でした。


「では、行きましょうか。ご一緒したい場所があって。」


 事務所内で話すのかと思っていましたが、どこかへ出向くようでした。急に落ち着かない気持ちになりました。

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