第86話 古民家修繕

「ゆりかさん、いつもありがとうね。ほんとに助かる!人手があると進むの早いから。」


 鈴さんとアヤちゃんの貸家へ来るのもすでに回を重ねていました。


「全然だよ~。私も楽しくやってるから。どんどん家がキレイになるから面白くなっちゃって。これおやつ、休憩の時にみんなで食べようね。」


 玄関先で話していると、ななちゃんとまーちゃんも来ました。自分の好きなお菓子に加え、子ども達の好きそうなおやつを選ぶのも楽しみでした。


「ゆりかサン、けっこう出席率いいですもんね。掃除や壁紙を貼る姿も板についてきたし・・・先日はワタシのところも手伝ってもらいましたしね。」


 来るときはいつもナミさんの車へ便乗させてもらいました。最初に鈴さんとアヤちゃんの物件を訪れてから、休みの度に鈴さんやナミさんの修繕中の貸家へ出向いていました。アヤちゃんに教えてもらいながら壁紙を貼る作業に挑戦して以来、すっかりはまってしまいました。それなりに時間はかかるものの、意外と簡単でやり方さえわかれば楽しい作業でした。廃墟のようであった部屋の雰囲気ががらりと変わるのでやりがいがありました。


 怖いもの見たさもあって、ナミさんや別のお仲間の貸家にも行ってみました。どのお宅もそれなりに古くて個性的でしたが、訪れた先々で掃除をしたり、ペンキを塗ってみたり、お手伝いをすると喜ばれました。出会う人達は皆さん少し変わっていて、不思議な面白い方達でした。


「ナミさんにドカジャンや作業靴も買ってもらったし、鈴さんにもいつもお食事やおやつをご馳走になっていますし・・・温泉にも連れて行ってもらえるので、ついうっかり来ちゃうんですよね~・・・」


 仕事はそれなりに大変ですが、まるで部活動かサークルか、休日の趣味のようになっていました。あれこれ体を動かして働いているとその日はぐっすりと寝られるので、翌日からも調子が良いのでした。


「それで1日働いてくれるならありがたいですね。ゆりかセンセイ、意外と安上がりな人だし。」


 ナミさんがいろいろ気遣ってくれているのはわかっていましたが、相変わらず話しぶりは失礼くさいのでした。


「ちょっとナミさん、人のこと安い労働力あつかいしないで下さい。私も手のかからなくて利回りの良い物件があったら買いますから、ちゃんとパスして下さいね。」


「え~~、そういうのは、ワタシも欲しいんですけどね。でもしょうがないですね・・・ゆりかセンセイ向きのがあればお知らせしますよ。まあ今のところは下積み頑張って下さい。」


 いくつもの物件を訪れるうちに、最初に古く汚い家を見た時の印象とは考えが変わっていました。本当に廃墟のようなところから、人の手がかけられることによってどんどん家が生き返るのを目の当たりにしていました。


 鈴さんの家の修繕はかなり進んでいました。家の中のあらゆる面が黄ばみ、茶色がかって汚かったのが変貌していました。天井は白くペンキが塗られ、汚い壁は剥がされ真新しい壁となり、リビングの床も新しく現代風のクッションフロアが貼られました。


 汚らしく荒んだ雰囲気だった和室も、畳はすべて取り払われ、板張りのフローリングに変身していました。壁も新しく貼り直され、デザインの良い照明に付け替えると全体が洗練された雰囲気になり、レトロ感はありつつも好ましい洋室に生まれ変わっていました。


 いずれの部屋も必要に応じて修繕が行われ、見違えていました。傾きに関しては角度がゆるくなることはありませんが、内装がきれいになるごとに、家賃次第では許容範囲かと思えました。


 アヤちゃんではありませんが、古民家を蘇らせるのが楽しみになっていました。古い家が変化してゆくのもやりがいがありましたが、一緒に取り組む仲間のいることが楽しく、いつしか自分の居場所のように感じられていました。

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