第83話 肉体労働
鈴さんたちがお弁当を買ってきてくれました。ナミさんはちゃぶ台を置いてくれて、ここで使うのかと思いました。アヤちゃんと子どもたちと私がちゃぶ台を使い、鈴さんとナミさんは床にブルーシートを敷き、まるでピクニックであるかのようにお弁当を広げていました。
チキン南蛮弁当は美味しくて気に入りました。衣が固めでざくざくとしていて好みの揚げ具合でした。子供たちは容器にアニメのキャラクターのついたお弁当を嬉しそうに食べていました。自分のいる場が不思議な状況でしたがアットホームで心が和みました。
食後はナミさんがカセットコンロとやかんでお湯を沸かして、紙コップに注がれたインスタントコーヒーと、チョコやクッキーなどの甘いものが配給されました。妙に美味しく感じられました。
食後もアヤちゃんと壁紙を剥がす作業に精を出し、鈴さんとナミさんは屋根の上の崩れかかった煙突を直す作業へ戻ってゆきました。アヤちゃんは親しみやすい方で、時におしゃべりをしつつ、夕方までに和室とリビングの壁紙も剥がし終えました。アヤちゃんは再びお茶と甘いもので休憩をしようと声をかけてくれました。
重労働というほどではなかったものの、このようにほぼ1日中体を動かして働いたことはなかった気がしました。正直体はくたくたで疲れ切っていて、甘いものとコーヒーを頂くと染みました。
だいぶ暗くなった頃に鈴さんとナミさんが戻ってきました。
「煙突、なんとか終わったよ。あんなもんでしょう・・・だんだん日が落ちてくるから焦るよね。」
煙突部分の修繕も終わったようでした。冬の時期に屋根に上って作業をするのは危険で過酷な状況で、ナミさん達もさすがに疲れた様子でした。屋内はストーブもあり温まっていましたが、外はかなり寒かったと思います。
「正直ちゃんと直ったのかよくわかんないけど、様子見てだね。ナミちゃん、ほんとありがとうね。ゆりかさんもアヤもお疲れさんです。今日はもう終了~!」
鈴さんの言葉にほっとしました。終わったんだと思いました。長いような、短いような1日でした。
「はーい、じゃあもう撤収ですね。ゆりかセンセイ、いろいろ働いてもらってたみたいでありがとうございます。おっ、壁紙はがし終わってるじゃないですか。」
ナミさんは壁のなくなったリビングと和室に満足そうにしていました。鈴さんも喜んでくれました。
「ナミちゃんとゆりかさん、お風呂屋さんは寄っていく?うちはみんなでいつもの日帰り温泉でお風呂と夕食済ましていくけど。ナミちゃん達は?」
アヤちゃんに尋ねられ、日帰り温泉と聞いて気持ちが上がりました。ですがお風呂へ行く準備はしていませんでした。
「あ~、ワタシは風呂道具はクルマに積んでますが・・・ゆりかセンセイには言ってましたっけ?お風呂屋さんに寄るかもとか。」
ナミさんに尋ねられましたが聞いていませんでした。知っていたらちゃんと準備してきたに違いありませんでした。
「やっぱり、用意してないですよね・・・タオルのセットは借りられますが、パンツはワタシのをお貸しするわけにもいかないし・・・」
ナミさんは少し考えている風でしたが、パンツを借りるのだけはごめんでした。パンツ以外にもいろいろ必要なものもありました。
「あの、準備はしていないですけどお風呂屋さんには行きたいです。どこかお店に寄ってもらえたら買いますから・・・」
郊外の地域でしたが、それなりに大きなスーパーやショッピングモールもあったはずでした。
「ナミちゃん達もお風呂屋さん行った方がいいよ。うちは家だとみんな入るまで時間かかるし、アヤも夕食作らなくていいし、ラクだもんね。ナミちゃん達も一緒ならチビたち喜ぶな~」
鈴さんも勧めてくれて、私も温泉へ行く気満々になっていました。
「じゃあ、ワタシ達も行きましょうか。ゆりかセンセイ、パンツの替えがなくても大丈夫ですよね・・・?」
控えめに提案されましたが、この時ばかりはナミさんに殴りかかりたい気持ちにかられました。
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