第82話 屋内作業

 その後私は家中掃除機をかけて回りました。チリや砂ぼこりのひどい玄関やリビング、おそろしく汚いカーテンのある窓回りも虫の死骸だらけで、心の中で悪態をつきながら狂ったように吸い取りました。


 床が多少きれいになるとほっとしました。動いていると体も温まり、ドカジャンを着ていると暑くなってきました。ストーブのない部屋で作業をしても平気でした。


「ゆりかさん、たくさんお掃除してくれてありがとうございます。今度はこっちで一緒にやりませんか?」


 まるで一杯誘ってくれるかのような言い回しで、アヤちゃんという奥さんが霧吹きを片手に声をかけてくれました。壁に霧吹きを吹きかけて、少し湿らせてから古い壁紙をはがすということでした。


「まず霧吹きをかけて・・・少し時間をおいて、カッターで切り込みをいれて・・・それで、こう・・・」


 彼女は壁紙を剥がすところを見せてくれました。ぴりぴりと大きく剝がれて、これはぜひやってみたいと思いました。薄手の手袋やカッターなど、道具もすべて貸してくれました。


 私はまた狂ったように霧吹きを吹きかけ、汚い壁紙を剥がしました。最初は小さくしか剥がせませんでしたが、水分が良い具合に壁に染み込むと大きく剥がせるようになりました。黄ばんで、茶ばんだ汚い壁をやっつけたくて、一心不乱に剥がしていました。


 娘さんのななちゃんは小さな手袋をして、剥がしたものをゴミ袋へ入れたりお手伝いをしていました。小さい男の子のまーちゃんは、ママのそばでうろうろしていました。


 どんどん剥がしながら、このように汚い壁ならばない方がどんなにましかと思いました。剥がせば剥がほどすっきりしました。一部屋すべてを剥がし終えると、殺風景ながらもさっぱりしました。床がチリや紙くずだらけになり、再び掃除機をかけました。


 勢いづいて、リビング隣の和室に取り掛かりましたがこちらは苦戦しました。霧ふきをかけても壁はごく小さくしかはがせず、うまくいきませんでした。全然はかどらなくて、やきもきしました。


 その頃、昼食を買ってくると言って鈴さんとナミさんが来ました。おふたりは、つなぎになった作業着を着ていましたが、やはりいろんな色のペンキがついていました。きっとペンキのついていない服は持っていないのでしょう。


「鈴やん、ここの壁紙、全然剥がせないの。どうしよう・・・」


 奥さんのアヤちゃんが困り果てて訴えました。


「あ~、それは、道具を使った方がいいね。スチームクリーナー持ってきてるから。」


 ナミさんがどこかから謎のアイテムを持ってきました。


「ここに水を入れて・・・少し待ったらこのノズルから蒸気が出るから、吹きかけて・・・そうしたら、ほら。」


 彼はその道具の使い方を見せてくれて、手ごわかった壁紙をはがしてくれました。


「わー、さすがナミちゃん!こういうノウハウって大事だよね。私もやってみるね。」


 アヤちゃんは喜んで、スチームクリーナーなるもので壁に蒸気をかけました。


「じゃあ、私は剝がしますね。アヤちゃんは蒸気をお願いします。」


 各段に作業がしやすくなって場が盛り上がりました。


「ゆりかさん、こっちも面白いから後でやってみて!うちもこれ買わなきゃだよね、鈴やん!」


 アヤちゃんは楽しそうで、その道具が気に入った様子でした。


「うん、ウチにもあるんだけどね、忘れてた・・・それと昼はどうする?お弁当買ってくるけど、ゆりかさんは何にしますか?」


 近所にチェーンのお弁当屋さんがあるとのことで、鈴さんはメニューのチラシを見せてくれました。美味しそうなお弁当がいろいろあり、ひどくお腹が空いているのに気付きました。


「・・・じゃあ、私はチキン南蛮弁当をお願いします。」


 から揚げやハンバーグもおいしそうで葛藤しました。空腹で油っぽいお肉をたくさん食べたい気分だったのでマヨネーズのかかったチキン南蛮を選びましたが、これらのお弁当を順番にいろいろ食べてみたいと思いました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る