第81話 おかしい人達

 話をしている間も耐えがたい寒さでした。なのになぜ鈴さんは半そで姿なのか、首にタオルを巻いていて汗をかいているのか、いろいろわからないことだらけでした。


「ナミさん、私はまず1階のお部屋に掃除機をかけようと思います。お子さんたちもいますし、ホコリや床に散っているものをもう少しきれいにした方が・・・あと、奥さんやお子さんのいるお部屋も寒かったので、車に積んでいたストーブをその部屋で使っても良いですか?」


 こんなに寒い場所では、何か作業をして動いていないと凍えそうでした。


「えっ、ゆりかセンセイ、意外とやる気なんですね。じゃあさっそく作業しますか。」


 ナミさんは少し驚いた様子で言いました。


「車のカギは開いてました?他の荷物も運びこんで良いですか?」


「じゃあ、とりあえず玄関に置いてもらえたら、こちらで動かしますね。でもゆりかセンセイ、その恰好じゃ汚れちゃいますね・・・」


 なるべく動きやすい恰好でと言われていたので、下はジーンズでしたが、上着は白いコートを着ていました。


「ワタシは作業着があるので、この上着、貸しましょうか?」


 なんとナミさんはご自身の着ている黒くて安っぽくて、色とりどりに汚れたジャンパーを貸してくれると申し出てくれました。親切なのかもしれませんが、どうにも着たくないと思いました。この人はきっと女性にもてないに違いないと思いました。


「俺も作業ジャン持ってるよ。そこらへんに転がってなかった?あれ着てもいいですよ?」


 鈴さんも声をかけてくれました。鈴さんの指さした方向に、紺色の物体が転がっていました。こちらもいろんな色のペンキらしきものが、細かく散って染められていました。


「えーと・・・じゃあ、こちら、お借りします・・・」


 究極の選択でしたが、白いコートを汚したくもなかったので落ちていた作業ジャンパーを借りることにしました。工事現場のおじさんが着るような、襟の部分が茶色でもこもこしていて変なデザインでしたが、見た目よりも厚手で着てみると温かいのでした。


「おお、ゆりかさん、ドカジャン似合うね!」


 鈴さんがほめてくれましたが、そんなわけないと思いました。このジャンパーが似合うと言われて喜ぶ女性はいないと思います。鈴さんもきっともてない人だろうと思いました。でも鈴さんには奥さんや可愛い子どもたちもいましたから、彼女もいないらしいナミさんよりはだいぶリードしていると思いました。

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