第80話 傾いた家

「こんにちは~やってるね。」


 ナミさんは2階の部屋にいた男性に声をかけました。こちらはさらに寒い部屋でしたが、作業をしていた人は奇妙に薄着でした。坊主頭の屈強な感じのがっしりとした男性で、この人が先ほどの女性のご主人で、子ども達のパパなのかと思いました。


「お~ナミちゃん、助かるわ~。今日は屋根から煙突やりたいけどいいかい?寒いところ悪いんだけど。」


 男性の言葉が謎でした。屋根から煙突とは・・・?なんの話題なのかとまた訝しく思いました。


「準備してきてるよ。あの煙突やばそうだし、急いでやった方がいいよね。あ、こちらはゆりかサン。会社に出入りしてる人ね。」


 ナミさんはさらっと紹介してくれました。


「ああ、見学したいって人ね。女の人だったんだ。」


 鈴やんと呼ばれた方は、私の方を見ました。


「あ、初めまして。急にお邪魔してしまってすみません。なにか、お手伝いできることがあったらやりますので・・・」


 思わず言いましたが、屋根に上がって何かすると言われたらどうしようかと思いました。屋根は嫌でしたが、まずは掃除機をかけた方が良いかもしれないと思いました。あと、女性と子供のいる部屋に暖房を・・・ナミさんの積み荷の中に掃除機や小型のストーブがあったのを思い出しました。


「お~、ゆりかサン、助かりますー。じゃあ、アヤの方に行ってもらおうかな~。チビ達がいてはかどらないかもしれないけど、遊んでもらっててもいいし。」


 それほど人手としては期待されていないようでしたが、まずは掃除機をかけようと思いました。子供も得意ではないので、そちらの相手も適任ではなさそうでした。


 2階は2部屋あり、ひとつはフローリングの洋室で、もうひとつは和室でした。洋室は割合広かったのですが、なんだか違和感がありました。


「あの、もしかして、ここの床、ちょっと斜めな感じがしませんか・・・?」


 言うのに勇気がいりましたが、控えめに確認してみました。


「あ~、そうなんです。多少傾いていても、家賃が相場より安ければ許容してくれる人たちもいるんですよ。」


 鈴さんはこともなげに言いました。どうやら傾いているのは間違いないようでした。


「そうそう、ちょっと傾いていても、掃除したりリフォームしたりで家がキレイになると、不思議と角度もゆるくなるんですよ。」


 ナミさんも当たり前のように言いましたが、そんなわけあるかと思いました。やっぱり少しおかしい人たちだと思いました。


 どんなに安いからといっても、傾いている家を買うなんて・・・


 内心呆れつつ、ハイリスクと揶揄やゆされるのも当然だと思いました。やっぱり普通の感覚の人達は手を出さないであろう家だと納得しました。

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