第79話 ボロ物件

 お子さんもいたとは驚きでした。リビングのドアから部屋に入るとなかなかの惨状でした。正直に言えば、すぐに逃げ出したい気持ちにかられました。いろいろな物が散乱して散らかっているせいもありましたが、家自体の雰囲気にも体がすくみました。まずい所へ来てしまったと思いました。


 どこもかしこもタバコのヤニが染みついているのか、壁も天井も薄汚く気が滅入りました。全体的に黄ばんでいるか、あるいは茶色がかっていました。古いつくりの窓にぶら下げられたカーテンも凄まじい汚さで、近寄っては危険だと思いました。暖房はついていたものの、家全体が冷え切っているのか寒くて仕方ありませんでした。


 リビングの隣には和室があり、暗い色の壁や古びたふすま、黒ずんで劣化の激しい畳が怖く見えました。まだ全てを見たわけではなかったものの、これは確かにやばい家だと思いました。よくこれを買う気になったものだと不可解でした。


 私は内心ショックを受けていましたが、ナミさんは平気な様子でした。やっぱり普通の人は買わないであろう家だと思いました。どういうメンタルなのかとこちらも不思議でした。


「こんにちは~。アヤちゃん、やってるね。」


 ナミさんは勝手知ったる様子で奥の部屋へ進み、作業していた女性に声をかけました。そこも古びた畳の部屋で、先ほどの子たちもいてお人形で遊んでいました。他のおもちゃや絵本も転がっていました。


「あ、ナミちゃんこんにちは~!いつもありがとうね。そちらは見学の方?」


 気さくな様子でその方は声をかけてくれました。明るく優しい雰囲気の方でしたが、こんな汚らしい場所に女性や子どもがいるのは気の毒だと思ってしまいました。


「ごめんね、急に人連れてきちゃって。こちら、ゆりかサンです。会社に英語教えに来てもらってるんだけど、興味あったらしくて。見せてもらって良いかな?」


 ナミさんが紹介してくれたので私も挨拶をしました。


「はじめまして、桜井と申します。急に押しかけてしまってすみません。どうしても、実際のお家を見てみたくて・・・」


 いくぶん動揺していましたが極力押し隠し、挨拶をしました。


「ですよね。120万円で買える家ってどんなか見てみたくなりますよね。でも実際ドン引きしてませんか?こんなですけど、遠慮なく見て行って下さい。ナミちゃん、鈴やんは2階にいるから。」


「はーい、じゃあ適当にやってるね。」


 ナミさんは2階へ向かいました。

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