第77話 激安物件

 まず信じられなかったのはその物件の価格でした。札幌市内ではないものの、車で1時間以内の近郊エリアでは古い一軒家が、驚くような低価格で取引されていました。田舎と呼ばれる地域ではあったものの、建物の価格は限りなくゼロで、土地代のみと思われる物件も多くありました。


 200万円代の物件はインターネット上にもありました。さらに驚いたことには、もともと格安で出されているそれらの物件を、価格交渉によって大幅に値下げしてもらった上で購入すると言うのです。200万円台の家が100万円台に下げられたり、価格はあってないようなものだそうです。値下げ交渉は鬼かやくざかというえげつない申し出ながら、相続等で空き家対策に困った人たちが投げ売りするケースもよくあるとのことでした。


 そのような価格の家ならば、確かに貯金に励めば購入は可能だと思いました。私も実際、会社員の頃に須藤と付き合って貯めたお金や手切れ金、会社が募った退職によって上乗せされた退職金をいずれ不動産購入のための頭金として手を付けずにおいたので、多少の自己資金は持ち合わせていました。


 それでも、そのような価格の家が存在すると知っても、手を出す人はいるものでしょうか。そういった家はどこも自分の年齢よりも多い築年数のものばかりでした。例えば築38年とか、築45年などと聞いてしまうと、そもそも住める家なのだろうかと思わずにはいられませんでした。


 おそらくお化け屋敷や廃墟のような家だからこそ、そんな価格で出されているのだと思われました。ですがナミさんはそういった家をすでに何軒も購入していると言うのです。きっと頭のおかしい人なのだと思いました。


 話を聞いた時、杉山さんや早川さんのリアクションを思い出し、合点がゆきました。ハイリスク、やばいやつ、誰でも手を出せるわけではない・・・そう話していたことに納得しました。


 それでも好奇心に逆らえず、それらの家を見てみたいと私はナミさんにお願いしました。ナミさんはあまり気が進まない様子でしたが、私がしつこかったので、仲間の方がリフォーム中であるという近郊エリアのお家へお邪魔させていただく運びとなりました。


 一体どんな家が見られるのか、ナミさんの恰好やその重装備にかすかな不安がよぎったものの、未知の場所への興味がやまないのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る