第75話 ハイリスク戦略
皆さんお仕事柄なのでしょうが、私が不動産に興味のあることを伝えると、親身になって話を聞いてくれました。ですがやはり私の状況では、ローンを組むのは難しいとわかっていました。
「・・・そうだったんですね。ゆりか先生、良さそうな会社にお勤めだったのに辞めてしまったんですね。それはもったいなかったですね~」
私も前の会社を辞めたくありませんでしたが、やむを得ない事情がありました。自業自得ではあったものの本当の理由は言いたくなかったので、仕事内容が好きではなかったと伝えました。
「正直なところ、現在のゆりか先生の働き方では審査に通るのは難しいと思います・・・」
杉山さんも言いにくそうでしたが、私自身も承知していたことでした。複数の職場をかけもちのフリーランス、もしくはフリーターの状態でした。
「正職員として転職される予定はないですか?その後も勤続年数を重ねていかないと、なかなか審査は厳しいかもわかりませんが・・・私もローンを組むのは苦労しました。」
杉山さんご自身も年齢が若いこともあったせいか、何度も銀行ローンを申し込んでは断られ、最近になってようやく審査を通ったという経緯をお持ちでした。
「生活はぎりぎりなんですけど、いまの仕事やパート先の人間関係も良いのでやめたくないんです。営業の仕事にも戻りたくないですし・・・」
以前は私も事務職の正職員として転職できたらと考えていましたが、求人自体が少ない状況でした。さらに今の職場や英語講師の仕事が楽しく、仮に給料が安定しても、好きでもない仕事に日々を費やす気持ちになれませんでした。
「だったら早川さん方式で、手堅いサラリーマンの人と結婚されてから、お相手の方にどんどん買ってもらえば良いんじゃないですか?そっちの方が早いかもしれませんよ。」
ナミさんが冗談とも本気ともつかない様子で提案してきました。
「なにそれ、早川さん方式って・・・でもゆりか先生でしたら素敵な彼氏とかいらっしゃるんじゃないですか?良い旦那さんつかまえて買わせる手もありますよね?」
早川さんが笑いましたが、あまり現実的な方法とも思えませんでした。
「えっ、いいえ、そんなこともないんですけど・・・あと私、バツイチなので・・・元夫はサラリーマンでしたけど、リリースしてしまいました・・・」
またもやこんなところで、離婚歴を話すはめになってしまいました。
「えっ、そうだったんですか!先生、お子さんは?」
驚いた様子で早川さんに尋ねられました。
「いえ、いませんけど・・・」
「じゃあ、身軽な独身ということですね。だったら大丈夫、次もいけますよ!」
彼女は軽く言いましたが、そう簡単に切り替えのきく性格でもありませんでした。
「え~・・・いえ、あんまり・・・結婚には懲りてるんですよ・・・?」
不動産投資に関する相談のつもりが、今後の人生相談になってしまいそうでした。
「しょうがないですね・・・もし、多少でも自己資金があるのでしたらワタシのおすすめの格安高利回り物件から攻めるという手もありますけど。」
ナミさんが仕方なさそうに策を出してきました。
「どうかな・・・ゆりか先生に向いているとも思えませんけど。高利回りって言ったって、それだけリスクが高いってことですよ。みんなドン引きするやつじゃないですか。」
忠告するかのように杉山さんが言いました。
「たしかに、ゆりか先生のイメージじゃないかな・・・ただ、ローンが無理だという人には向いているでしょうけど・・・」
早川さんも、あまりお勧めはしていなさそうな様子でした。
「ナミさん、なにか良い方法があったらぜひ知りたいのですが。教えてくれますか?」
それでも私は思わず期待を込めてナミさんに尋ねました。
「うーん、でもやっぱり、ゆりかセンセイには向いてないかもですね。やっぱり早川さん方式で、婚活してみてはいかがでしょう?」
なにやら気が進まない様子でした。
「もう、なんでそうなるんですか?結婚もやっぱりハイリスクでしたよ?早川さんのようにうまくできませんでしたから、ちゃんと不動産のこと教えて下さい!」
自分にできるかどうかは別として、ナミさん方式についても気になりました。この際でしたから、食い下がってみようと思いました。
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