第73話 不動産オーナー

「それにしても成田さんはお仕事熱心ですよね。いつも忙しく動き回っているんですね。」


 レッスン後、コーヒーのおかわりを頂きながら、社員の方達と雑談をすることがありました。成田さんが不在の時は、なにかと話題になることもありました。


「営業としてはやっぱり成田さんがメインですよね。季節柄なこともありますけど、抱えているお客さんや紹介も多いですから。事務所で会わない日もありますよ。ゆりか先生が残念がってたって伝えておきますね。」


 からかうように早川さんから言われてしまいました。


「いえ、そんなつもりじゃ・・・成田さん、以前もお仕事が趣味のようなものだとおっしゃっていましたから。大変なことも多いと思いますが、面白いお仕事なんでしょうね。」


 少し慌てて言い訳をしました。成田さんに会えないのは残念でしたが、そんなにはっきり言わなくてもいいのにと思いました。


「ここの人たちはみんな、不動産好きな人ばかりですよね。それぞれ得意分野は違いますけど。」


 杉山さんはナミさんや早川さんを眺めて言いました。


「うん、私も自宅にいても、いつも物色してます。物件見ていたらすぐに時間が過ぎちゃって。」


 早川さんが笑いました。


「ご自宅でもお仕事されているんですか?在宅ワークの時もあるんですか?」


「ううん、プライベートの物件探しってことだけど。ここで働いている人達はこれでもみんな不動産オーナーだから。こんな若いお兄ちゃんの杉山君ですら。」


 一瞬理解ができず、早川さんの言葉に耳を疑いました。思わず杉山さんを見つめてしまいました。20歳代半ばほどにしか見えませんでした。


「お兄ちゃんって・・・勤続年数はそれなりですよ、高卒から働いてるんですから。まあオーナーと言っても、最近やっと6戸のアパートを1棟を購入したばかりです。早川さんに比べたら遅い歩みでしたよ。」


 大したことのないように言われましたが、これほど若い方が6戸ものアパートを経営していたとは驚きでした。


「そうそう、杉山君の方が先輩なのにごめんね。私も事務のパートに来たつもりが、気が付いたらいくつかの不動産を買っているなんてびっくりだよね。」


 軽い口調でしたが、またもや早川さんの発言に目を見張りました。


「早川さんは才能ありますもんね。サラリーマンのご主人にポンポン買わせて、借金背負わせて・・・ご夫婦の関係は大丈夫なんですか?」


 ナミさんがからかうように尋ねました。どうやら実際の購入者は早川さんのご主人であったようでした。


「まあ、最初こそ説得するのに苦労したけど、ここの情報と皆さんのサポートもあるし、人生変わったって喜んでますよ。老後の安心感が違うし、ローンは入居者さんが払ってくれますし。」


 いたって明るい様子で早川さんは答えました。


「たしかにここは目利き揃いですからね。リスクは低いでしょうね。」


 ナミさんが淡々と述べました。


「でもナミさんこそ、高利回りとはいえハイリスクなの好きじゃないですか。怪しいのばっかり取り揃えていますよね・・・」


 杉山さんは呆れたような口ぶりでナミさんに言いました。私はナミさんへ目を向けました。


「ワタシのは、借金を背負わない分安全性が高いんですよ。ワタシからすればあなたがたの方がよほど度胸がいいと思いますけど。」


 ナミさんはどうやら反論しているみたいでした。


「僕にはナミさん系のは厳しいですね・・・メンテナンスがやばいやつじゃないですか・・・ナミさんみたいに器用だったらありでしょうが、普通の人は手を出しにくいやつばかりですね。」


「いや、そうでもないよ?最近はまともなのも混ぜているんだけどね。」


 皆さんそれぞれ持論があるらしく、どうやら不動産と言ってもいろいろな傾向があるようでした。


「ナミさんはそっちの才能があるからね。あ、先生ごめんなさい。わけわからないですよね。私達、不動産のこと話しだすと止まらなくて・・・そろそろやめておきます。」


 早川さんが気を遣ってくれましたが、もっと詳しく聞きたい気持ちでした。


「いえ、面白そうです。ちゃんとわかってはいませんが、皆さんの不動産ストーリーに興味しんしんです。」


「先生、そんなこと言ったらみんな延々と話し出すので気を付けて下さいね。」


 たしかに不動産のことを話すと皆さん楽しそうで、生き生きとしていました。いつまでも聞いてみたい気がしました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る