第72話 成田さんの会社
成田さんの会社でレッスンをするようになって1カ月以上が過ぎました。英会話教室の事務の仕事もすでに始まっていましたが、その勤務後に移動しても間に合う時間帯でした。他にもカフェでの教室や個人レッスンもあり、複数の場所でかけ持ちをして働くのは変化を感じられ充実していました。
成田さんのオフィスでは、ほぼ毎回早川さんとナミさんが参加してくれました。回を追うごとに他の社員さんも参加してくれる日もあり、時おりメンバーが変わることも新鮮でした。
成田さんは不在のこともよくありました。物件の内覧や案内等、外での営業活動も多いようでした。社内にいるときも電話や来客との商談中であったり、常に忙しそうにしていました。彼の会社へ来ればもう少しお話する機会もあるかと期待していましたが、挨拶をするのがせいぜいでかなりご多忙のようでした。
それでも時に合間を見て短い時間だけ参加したり、その時々で他の方の様子を見るような形でレッスンにも来ていました。レベルが異なるせいか、あるいは気を遣ってか、事務所内にいてもたまに様子を見に来る程度でした。
「どうせ、私がいない方がのびのびできるんでしょう?ですよね、早川さん?」
通りがかりに、パーテーションの間から成田さんは声をかけてきました。
「当たり前じゃないですか。せっかく堂々とさぼれる時間なのに。成田さんがいたらやりにくいから、あっち行ってて下さいよ。」
のび太君に似たナミさんが答えました。成田さんは彼の上司のはずでしたが、日常的に無遠慮な言い方をしている気がしました。
「そんなことないですよ、成田さんも一緒にどうですか?遠慮しなくていいのに。」
早川さんは感じよくお返事されていました。
「本当は仲間に入りたいのかもしれないけど、気を遣っているんですかね?照れてるのかもしれませんよ。」
この日は若手男性社員の杉山さんも参加していました。営業の方らしい爽やかで好感の持てるルックスの人でした。初めて参加したレッスンではぎこちない様子でしたが、2回目以降はすぐに慣れた様子で来てくれました。
「ゆりか先生って、あの人の好みのタイプですよね。背が高いし、黒髪のストレートだし・・・絶対どっかで口説こうとしてるんだろうな~」
ナミさんが気になる発言をしました。成田さんは黒い髪が好きだったのかと聞き逃しませんでした。
「えーと、いない方の噂をするのはだめですよ。勉強の時間ですから・・・いまの、英語で言うならいいですけど。」
正直に言えば、成田さんの好みのタイプ情報は気になりましたが、レッスンを優先させるべき立場でした。
「うーん、これを英語で言うのは厳しいな~・・・」
皆さん考え込んで、静かになってしまいました。
いずれにしても、成田さんの会社で英語を教えるのは思いがけず楽しい経験でした。初めは乗り気でなく、習い事をするのは圧倒的に女性が多いものですし、男の人はどうかと考えていたものの、ここの男性の社員さんは感じの良い方ばかりでした。
この会社の雰囲気も好きでした。ぎすぎすしていなくて、皆さん仲良さげで、気兼ねなく言葉を交わしている様子も好ましく映りました。成田さんの職場での姿も知ることができて、良い印象を抱いていました。
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