第71話 遅れてきた人
「・・・では、始めましょうか。まずは、自己紹介からにしましょうか。あと、趣味なども・・・英語で言えそうでしたら英語で、難しい場合は日本語で良いですよ。成田さんから良いですか?」
「ふーん、趣味ね・・・そういうの、言おうとすると意外と難しいね・・・」
そう言いつつも、成田さんは慣れた様子で話し始めました。
「え、全然わからなかった。成田さん、ペラペラですもんね。なんて言っていたんですか?」
早川さんは困った様子でした。
「そうですね・・・成田さん、もう少しゆっくり話していただけますか?」
成田さんの話しぶりは、まるで場数が違うなと思いました。彼は学生時代に留学をしたり、バックパッカーの旅をしたり、外国人の友人がいた等、若い頃から外国語に親しんで来たそうです。とても話し慣れていて、経験も豊富な方でした。
「あ、ごめんね、早川さん。仕事が趣味みたいなものだって言ったんです。あと旅行が好きとか、そんな感じですよ。」
成田さんは照れた風に笑いました。
「あ~、そうだったんですか。なるほど・・・あ、ナミさん帰ってきましたよ。お疲れ様です~!」
早川さんは後方へ向かって声を掛けました。振り返ると、痩せて背の高い男性が現れました。色白で眼鏡をかけていて、ふいに、どこかで見たことがあるような気がしました。しばし考えてみて、あの国民的アニメの主人公、のび太君に似ているかもしれないと思いあたりました。
「ナミ、遅かったね。6時からだって言ってたのに。」
どうやらこの人がナミさんなのだと思いました。名前からは女性だと思っていましたが、あだ名のようでした。
「すいません、忘れそうになっちゃって。直帰しようかと思ってたんですけど、わざわざ戻ってきましたよ。」
のび太くんのような、そのナミさんは悪びれもせず言いました。成田さんより若く、30歳前後ぐらいに見えましたが、軽い口ぶりでした。
「なんだか恩着せがましい言い方だな・・・ほら、じゃあナミ、趣味は?」
成田さんは先ほどの話題を振りました。
「はっ、趣味・・・?うーん・・・寝る前に、スマホでエロマンガをみることですかね?」
早川さんが笑い、成田さんは呆れた眼差しを向けました。私は吹き出しそうになるのをかろうじてこらえました。
「でも、肝心なところで有料になっちゃうんですよね~」
ナミさんは不満をこぼすかのように続けました。
「もう、ナミさん、もっとましなやつはなかったの?なんで今、この場でそれを言えますかね?初対面の先生もいらしてるのに。」
早川さんはまだ笑っていました。私もこらえ切れず、笑いを漏らしてしまいました。
「え、だって、いきなり趣味とか言われて・・・他に思いつかなかった。」
ナミさんは至って普通の様子で、
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