第68話 おもてなし

「いいにおいですね・・・あ、これもデザートに。冷蔵庫に入るかな。」


 成田さんはケーキの箱らしいものが入った袋を差し出してくれました。


「いろいろ、ありがとうございます。玄関に置いてきますね。」


 冬の期間は玄関スペースも冷蔵庫がわりにできました。家に人を招くと皆さんあれこれとお土産を持ってきてくれるのが特権でした。


 生徒さん達に混ざって成田さんがいるのは初めは違和感もありましたが、京子ちゃんとユキちゃんはすでにスポーツジムでおなじみでしたし、未央ちゃんも人見知りせず快活な人なので特に気まずいこともありませんでした。皆さんコミュニケーションに長けた方ばかりなので、たまに男性が混ざっているのも新鮮で悪くないと思いました。


 和気あいあいとみんなで鍋を頂きました。生徒さん達からワインやおつまみの差し入れもあり、私もちょっとしたお惣菜を準備していたのであれこれとつまみながら、食事を楽しんでいました。


「ゆりか先生、ほんとにお料理上手~!このキムチ自家製なんですよね?韓国へ行ったときに食べたのとすごく似てる。」


 未央ちゃんはキムチが気に入ったようでたくさん食べていました。以前知人からレシピをいただいたので、冬の白菜の時期はよく作りました。


「これね、前にサークルの人から教えてもらってね。その人は韓国の方から教わったんだって。簡単だし、良かったらレシピ送ろうか?」


「いえ、ゆりか先生のおうちで食べたいからいいです。」


 秘蔵のおすすめレシピでしたが、彼女は作る気はないようでした。


「私、このポテトサラダがね・・・大好きなんですけど、ふつうのサラダより手間がかかるし、なかなか作らないじゃないですか。先生、たくさん作って大変だったんじゃないですか?」


 ユキちゃんはポテトサラダがお気に入りのようでした。


「いや、親がじゃがいもをたくさん送ってくれてね。食べきれないから、ここぞとばかりに消費しようと思って・・・人が来るときのあるあるメニューなの。」


 田舎出身なので、時おり親は地元の野菜を送ってくれていました。


「このお鍋も何回でもおかわりしたいんですけど、デザートもあるんですよね。どうしようかな・・・」


 京子ちゃんもお腹の配分にお悩みのようでした。持ち寄りのスイーツやスナックもあり、美味しいものがたくさんの夕べでした。


「ゆりかって料理が上手なんだね。なんかそういうイメージじゃなかったけど・・・こういうの作ったりするんだ。」


 成田さんが感心した様子で告げました。意外そうな口ぶりでした。


「また、成田さんて私のイメージ悪そうでしたよね。自炊は普通にしますけど。外食ばかりだとお金かかるじゃないですか。まあソフィーさんみたいな素晴らしいディナーは作れませんけど・・・」


 自宅で友人を誘って食事をいただくのは楽しみでしたが、パリで頂いた夢のような晩餐とは比べようもありませんでした。


「え?ああ、あれはフランスだから・・・食事はコースが基本なんだろうね。でもやっぱり和食がいちばんだよ。毎日食べるならお惣菜や野菜を多くとりたいけど、独り暮らしだし仕事も忙しいからコンビニも多いかな。」


 成田さんは和食が好きなのだと思いました。須藤も和食が好きだったことを思い出しました。


「成田さん、おいしいお店とか詳しそうなのに。そういうものですか。」


「うん、食べ歩くのも好きだし、料理も嫌いじゃないんだけどね。時間と心に余裕がないとなかなか・・・ゆりかが家に来て作ってくれたらいいんだけど。」


 何気ない様子で言われましたが、一瞬どきりとしました。

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