第67話 花束

「・・・お花、持ってきてくれたんですか?」


 少々面食らいつつ、差し出された大きな白いユリの花束に釘付けになりました。そういえば成田さんは、パリの梶さん夫妻のお宅を訪問した時も花を買っていたのを思い出しました。花を贈るのは何かお祝いごとのイメージがありましたが、彼にとっては日常的なことだったのでしょうか。


「ほら、フランスだと、プレゼントをもらった時はビズをするんだよ。ゆりかはしてくれないの?待ってるんだけど・・・?」


 からかうような口調で声をかけられ焦りました。ビズというのは、あのフランス式の挨拶のことでした。


「えっ、あれ、アレのことですか?だって、日本ですし・・・」


 動転して口ごもっていると、後ろの方から京子ちゃんが言いました。


「成田さん、こんばんは。お先にお邪魔していてすみません。お花、綺麗ですね。」


「・・・本気でお邪魔だったらすみませんね。そうですか、お花ときましたか・・・」


 面白がるようにユキちゃんが言いました。


「成田さん、はじめまして。お噂はかねがね。私もゆりか先生に英語を習っている石川未央といいます。今日は私達もご一緒してしまって申し訳ないのですが・・・」


 未央ちゃんもなにやら遠慮めいた口ぶりでした。


「そんな、悪いことなんてないよ。またみんなと鍋したかったし。」


 私が未央ちゃんたちに言うと、成田さんはにっこり笑いました。


「こんな美女ばかりのところへ呼ばれるなんて光栄です。じゃあ、お邪魔します。」


「あ、はい、どうぞ・・・狭いですけど。」


 実のところ、内心では舞い上がっていました。彼をリビングへ案内しながら、やはり生徒さんたちも一緒で良かったと思いました。

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