第65話 鍋計画

「そういえば、ゆりか先生のところでお鍋をご馳走してくれるという話がありましたね?寒い季節ですし、おいしそうですね。」


 ふと表情を崩して成田さんが言いました。


 パリでは成田さんのご友人である梶さんご夫婦のお宅にお邪魔しました。フランス人の奥様、ソフィーさんから素晴らしいおもてなしを受けたので、もし梶さんご夫妻が札幌へ来る場合はおでんかお鍋でも、と声をかけていました。


「ああ、そういう話もありましたね・・・成田さんのお口に合うかわかりませんけど・・・そうですね、いつにしましょうか。これからですと、クリスマスの頃か、年末か、あるいは年が明けてからの方が良いでしょうか?」


 ソフィーさんと梶さんが来る時のつもりで話しましたが、あの時は確かに成田さんも呼ぶと言った覚えがありました。社交辞令では良くないので、口にしたことは実行しなければと思いました。


「いつでもいいですよ。日程を教えてもらえたら空けますから。」


 まっすぐに見つめられ、端正な顔立ちと奇妙に迫力のある眼差しにどきどきしました。


「そうですか・・・今、スケジュール帳を持っていないのでまたメールします・・・このジムに来ている生徒さんもいるので、彼女たちも誘いたいのですが良いですか?」


 ふたりきりだと厳しいのでユキちゃんや京子ちゃんも誘うつもりでしたが、一瞬成田さんの目が曇った気がしました。


「え?そんなのダメですよ?・・・と言いたいけど、しょうがないですね。やっぱりゆりかって用心深いな・・・いいですよ、その人たちも一緒でも。本当はふたりがいいけど。」


 まるで妥協したかのような言い方でした。こちらも微妙な気持ちになりました。外はともかく家でふたりで会うとなると、まだ難しいのでした。それでも成田さんや生徒さんたちを家に呼ぶのは楽しみだと思いました。

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