第60話 噂

「えーと・・・なので、宿は別々だったし、パリでは2日ほどご一緒させてもらったということなの。」


 レッスン後のお食事の時間、生徒さんたちにフランスでの出来事や、成田さんも合流したいきさつなどをざっくりと話して伝えました。


「うーん・・・じゃあ、成田さんの言っていることも嘘ではないんですね。ゆりか先生とパリで一緒だった、なんて聞きましたけど・・・」


 京子ちゃんが確かめるように言いました。


「それに、先生のことゆりか、って呼び捨てにしてましたよ。ジムではもうすごい噂になってます。藤田さんもショックだったみたいだし。」


 ユキちゃんの言葉に軽く動揺しました。すごい噂って・・・でも確かに成田さんは私を呼び捨てにしがちでした。ジムの方はみんな、ゆりか先生とか、ゆりかさんと呼んでくれましたが。


「いや・・・そんな、特別親しいとかじゃないんだけど。成田さんは旅行好きで、海外とかフランスにも詳しいようだったから、たまたまあちらで会うことになって・・・私もびっくりしたんだけど。」


「え~でも、さすがにパリまで行ったらねぇ、ゆりか先生口説かれなかったんですか?」


 皆さん疑問に思っていたであろうことを突っ込んできたのは未央ちゃんでした。


「うん・・・?いや、だって知り合ったばかりだしね。そんな急には・・・」


 部屋に連れ込まれそうにはなりましたが、そこは伏せておきたい部分でした。


「え、だってパリですよ!パリで会えたりしたら盛り上がっちゃいそうじゃないですか。むしろそうならない方が不自然じゃないですか?意外に成田さんっておくてなんですかね?」


 ユキちゃんが疑問を述べましたが、奥手ではなさそうだと思いました。3回会えばなんとか等言っていたのを思い出して、微妙にいらいらしました。


「いろいろパリを案内してもらえて、楽しく過ごせたから感謝はしてるけど・・・お付き合いとかしてるわけじゃないよ。」


「え~~・・・でも、前から噂になっていたんですよ。ほら、前の飲み会のときも、ゆりか先生が急に帰っちゃって、それから成田さんも行っちゃったからどうしたのかと思ってて。聞いていいのかどうかわからなかったんですけど気になってました。」


 ユキちゃんはここぞとばかりに以前のお食事会のことを話題にしたので内心焦りました。噂になっていたなんて・・・でも、それもそうかもしれないと思いあたりました。噂とは、案外本人の耳には届かぬまま出回る性質があるものです。


「成田さんね・・・良い方だと思うけど、少し変わっているような気もするし・・・雰囲気もちょっと怖いというか。」


「うん、それもわかりますよ。なんか迫力ありますよね。じゃあゆりか先生の方は、なんとも思ってなかったんだ。」


 そのように言われると違う気がしました。


「えっ・・・いや、素敵な人だと思うけど。フランス語も話せてね。かっこよかったよ・・・?」


 そう言ってしまうと恥ずかしくなってしまい、声が小さくなりました。


「もう~なんですかそれ。どうしたいんですか?なんとかした方がいいんじゃないですか?」


 未央ちゃんが呆れたように笑うと、ユキちゃんや京子ちゃんからもあれこれ突っ込まれました。


「えっ・・・だって、成田さんってどんな人かまだよくわからないから・・・まずはお友達になってみて、しばらく経ってみないと・・・」


 なんとか彼女たちに言葉を返しましたが、言い訳みたくなっていました。


「ん?お友達から?なんか昔聞いたようなフレーズですけど。お友達になって、それからどのぐらい経てばいいんですか?」


 未央ちゃんから分析するように尋ねられました。


「うーん、2,3年ぐらいすれば多少わかるかな。」


「いや、それ時間かかりすぎですから。ペース遅すぎますよ。」


 すかさずユキちゃんに詰められました。自分でもちょっと遅いかと感じました。


「そうね・・・半年ぐらい?」


「うーん、まだゆっくりですけどだいぶ縮まった。そっか、ゆりか先生がおくてなんですね。成田さん、苦戦しそうですね・・・」


 なぜだか成田さんに同情するような雰囲気が漂っていました。


「でも、ゆりか先生も成田さんのこと悪く思っていないなら、ちょっとペース上げた方がいいかもですよ。」


 冷静な面持ちで、真面目な口調で京子ちゃんが告げました。気付けば彼女達から、あれこれアドバイスを受ける羽目になっていました。

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