第59話 とまどい

 成田さんに対してはいくぶん中途半端な気持ちで過ごしながら、帰国後初のレッスン日が訪れました。


「こんばんは~。ゆりか先生、ちょっとご無沙汰でしたね。どうでしたか、パリは?」


 ある平日の晩、いつものカフェで英語教室の日でした。この日は京子ちゃんが一番先に到着でした。


「うん、もうね・・・また行きたい!京子ちゃんもパン好きだよね。バゲットやクロワッサンが美味しすぎるし他の食べ物もワインも・・・はい、みんなにお土産もあるからね。」


 現地で購入したクッキーやチョコレートの入った袋を出しました。個別に生徒さんの人数分、用意してありました。


「わ~~、いいんですか?もう、お話聞きたくてたまらないんですけど。レッスンの後、お食事できますよね?そういえば、ゆりか先生はスポーツジムの方とフランスへ行ったんですか?」


「えっ?・・・なんで?」


 いきなりの京子ちゃんの質問に驚き間抜けな返事を返していました。私は成田さんがパリに来たことは誰にも話していませんでした。


「え?だって、あの目立ってる人・・・セクシーの権化みたいな、成田さんでしたっけ?昨日ジムで、ゆりか先生は来てないのかと聞かれて・・・それで、先生とパリに行ったって言うので驚いたんですけど・・・っていうかこれ、聞いてもいいんですか?」


 成田さんが?それって・・・言って良いのかどうか、私にもわかりかねました。


「こんばんは~!あ、それはもしかして、フランスのお土産ですか?ありがとうございます!」


 困惑している間に、ユキちゃんも現れました。続けて未央ちゃんも到着し、しばらく旅行帰りの話題で盛り上がりました。先ほど京子ちゃんに聞かれたことは、うやむやでいけるかもしれないと心をよぎりました。


「それで、ゆりか先生、ジムの成田さんとパリに行ったって聞いたんですけど・・・そうだったんですか?そのへんのところ、詳しく聞いても良いでしょうか?」


 話がひと段落すると、ユキちゃんからもだしぬけに聞かれました。私は再び言葉を失いました。


「え、なんですか、その話は?よくわかりませんが、私も聞きたいんですけど。」


 スポーツクラブには行っていない未央ちゃんも興味をひかれた様子でした。京子ちゃんも便乗し、私も聞こうと思ってたの、と蒸し返してきました。


「あのね・・・まずは、英語のレッスンからにしましょうか・・・それから後でゆっくりね。」


 教える側としては、まずは授業を優先させなければなりませんでした。その最中、彼女たちにどのように伝えたものか、考えあぐねていました。

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