第58話 ひとりのパリ
翌日からは、アパートホテルで何日かを過ごしました。朝食付きにはしなかったので、朝起きると散歩がてらパン屋さんへ出向きました。
その日からはもう成田さんに会えないことが淋しく思われました。それでもパリはどんな時も美しく、街を歩けば心がなぐさめられました。
成田さんがいなくとも、私はパリを満喫しました。と言ってもほとんど近場を見て回りました。アパルトマンのすぐ近くのオペラ座内部を見学したり、エッフェル塔を目指して歩いたり、気になっていたオルセー美術館にも足を運びました。
市場で野菜や果物を調達し、夜と朝は自炊もしました。専門店で生ハムやサラミを買ってサラダにしたり、チーズをふんだんに使ったパスタも作りました。ワインもたくさん飲んでしまいました。
ひとりで過ごすのも楽しかったのですが、やはり誰かと一緒にいたり、誰かに会えたりした方がずっと良い時間であったと思えました。
成田さんが帰ってしまってからも、よく彼を思い出していました。パリまで来てくれたお礼や、引き続きパリでの日々を、日記のようにメールで送ったりもしました。
帰国後、スポーツジムで成田さんと再会できるのを楽しみにしていましたが、なかなかタイミングが合いませんでした。私も休んでいた分、授業の準備などで忙しくなりましたが、成田さんも東京や地方へ出張に出ていたらしく、お仕事が忙しいようでした。
私達はお付き合いをしているわけではなかったものの、私は彼を男性として意識しつつあったと思います。一緒にパリで過ごした時間は強く心に残っていて、旅での特別な思い出になっていました。
正直に言えば、私は彼に淡い想いを寄せていました。少し前までは遠くから眺めてひそかに嬉しくなるような存在だったのに、いつしか欲張りになっていました。できればもっと会ってみたくて、お話したいと願っていました。
とはいえ深い関係になりたいかと言えば私には時間が必要でしたし、パリでは冷たい言葉をぶつけてしまいましたから、今後も仲良くなれるのかわかりませんでした。そもそもあの方は遊び人かもしれませんし、いくらでも女性の方から言い寄ってきそうに思われました。
やっぱり、だめかも・・・と思いつつありました。成田さんのことは気になりましたが好きになるべきではないという思いもありました。友人としていられた方が、傷つく心配もないはずでした。
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