第55話 宮殿

「パリでお城と言えばヴェルサイユ宮殿が有名だけど、私はこっちの方が好きだな。昔来た事があって、また来たいと思ってた。」


 成田さんのおすすめはフォンテーヌブローというお城でした。パリ市内から電車とバスを乗り継いできましたから、私ひとりでは来られなかったと思います。


 まるで中世のおとぎ話の中へ迷い込んだかのような、非日常な光景でした。裏庭や周辺の森を散策すると、外国の歴史映画の世界そのものでした。お城は近くで見ても素晴らしいのですが、離れた距離から眺めた方が好きでした。水辺に浮かぶ優美な姿はめまいを覚えるほどの美しさでした。


「夢みたいな場所ですね・・・!こんな世界があったなんて。ここに来られて本当に良かったです・・・」


 彼に感謝していましたが月並みな言葉にしかできませんでした。とても感動しているのに、気持ちを十分に表せた気がしませんでした。


「ゆりかも気に入ってくれたなら嬉しいな。やっぱりここは見せたいと思って。」


 朝、会った時はヤクザまがいに見えた成田さんでしたが、この上なく優秀なガイドでした。


 ロマンティックすぎる場所でした。お城の外観もすごいのですが、宮殿の内部も途方もない広さで、豪華絢爛できらびやかな世界でした。あの歴史的人物であるナポレオンのゆかりの城であったと聞かされ再び驚きました。


「ナポレオン・・・?とんでもなくビッグネームですよね。なんだか知恵熱が出てしまいそうです・・・パリに着いただけですごい達成感で大満足していたのに、世の中にはいろんなすごい場所があるんですね・・・」


 半ば茫然とし、半ば夢見心地で漏らしました。


「ゆりか、けっこう大げさだね。ヨーロッパにはこういう場所は無数にあってね。私も城めぐりは好きだけど、フランスだけでも数えきれないぐらい行きたいところはあるよね。世界遺産もたくさんあるし、一生かけても全部は見られないだろうね。」


 成田さんが世界中を旅する気持ちがわかったような気がしました。知識として知っているのと、実際に訪れるのはまるで異なる体験でした。

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