第53話 ふたたび、成田さん

「・・・ゆりかってば!さっきから呼んでるのに。やっぱり怒ってる?」


「・・・成田さん?どうしたんですか?ちゃんと帰れますよ。もうすぐそこですから。」


 私も驚きつつ返事をしました。送ってくれるなら、早くそうしてくれれば良かったのに。


「さっきはびっくりしすぎて・・・カルチャーショックすぎてね。出遅れちゃったけど・・・なんだか前にもこういうことがあった気がするな。」


 成田さんは笑いました。確かに以前も、スポーツジムのお食事会のとき、成田さんは私を追いかけてきたことがありました。


「ゆりか、明日はどうするの?私はもう1日こっちにいるから・・・ちゃんと決めていなかったけど、何時に会う?」


 屈託ない様子で尋ねられ、秘かに心を打たれました。私の方こそ、彼にとってはひどい事をしましたから、もう私に会いたくないかもしれないと思っていました。


「えーと・・・10時にチェックアウトして、それから次のアパルトマンに移動して荷物を預けます。10時半頃でしたら・・・」


「そう。じゃあ10時に迎えに来るよ。荷物の移動、ひとりじゃ大変かもしれないし。」


「オペラ座まで、そんなに遠くないので大丈夫ですよ。でも来てくれたら嬉しいです。」


 成田さんが、いまだにいろいろと気にかけてくれることに気持ちが上がりました。


「そうだ、私がゆりかのところへ泊まればいいのか。だったら荷物を詰めるのも手伝えるし。」


「そんなの、だめって言ってるじゃないですか。」


 つい早口で言い返してしまいました。ふと思いついたかのように言われましたが勿論却下でした。


「・・・やっぱり。冗談だよ。ゆりかってお堅い人だよね。そうか、こういう気分になるのか・・・」


 なにやら感慨めいた様子で成田さんは呟きました。


「さりげなく言ってみたってだめですよ。なんの策略ですか。」


 我ながら厳しいのかもしれませんが、やはり譲れない部分でした。


「いや、だめもとだったよね。まあ、こういうのもけっこう悪くないね・・・じゃあまた明日。」


 苦笑いしつつも、彼もそれほど本気で主張したいわけではなさそうでした。


「はい・・・今日は本当にありがとうございました。また明日。」


 先ほどはほとんど言い合いのような、けんか別れに近い状態でしたが、翌日もまた約束できたことを嬉しく思いました。価値観の合わない部分はあるものの、歩み寄ってきてくれる成田さんに感謝していました。

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