第51話 言い合い
「え?ゆりかって・・・どういうこと?だめって・・・」
成田さんは半ば茫然としていました。
「だって、ダメなものはダメです。そんな、成り行きみたいな、海外に来た勢いで、とか、そういうのだめなんです。まだ知り合ったばかりなんですよ?」
「そんな、またそういうの?ゆりかはいつの時代の人なの?知り合ったばかりって、いい大人の男と女が三回も会えば、ふつうは・・・」
呆れたような彼の口調に気持ちが逆立ちました。
「え?なんですか、三回会えばって?成田さんはそういう人なんですか?私はちょっと、そんな風には・・・」
よく知りもしない人と泊まるとか、とにかくそんな風には考えられませんでした。日頃から映画などで、出会って間もない男女がすぐに寝る場面もいつも理解しかねていました。
「・・・ゆりかに好かれていると思ったのに。いつも感じよく楽しそうにメールをくれたし、ジムでは私を見ていたのに?私もゆりかに会うのが楽しみだったし、ゆりかが来ると聞いたから、あの時の飲み会に混ぜてもらった。」
成田さんは複雑な面持ちで語りましたが、彼は気付いていたのだと思い知りました。いつも遠巻きに彼を見ていたことをこの人は知っていた。そして彼も、私を気にしてくれていたことを知って心がしめつけられました。
「・・・成田さんのこと、気になっていました。だからお話できるようになって嬉しかったです。それだけでも嬉しかったんです。パリまで来て下さったのも信じられないような出来事で・・・一緒にパリを歩けたのも、素敵な時間でした・・・」
それは正直な気持ちでした。
「じゃあ、やっぱりゆりかは私を好きだということだよね?だったらどうして・・・」
腑に落ちないといった表情で尋ねられました。確かに私の話すことも彼には理解しかねることだったかもしれません。
「でもだからと言って、一緒に泊まるとか、私には急激すぎるので・・・成田さんは違うのかもしれませんが。」
「私は違う。もっとよく知り合ってからとか、そんなのは違う。知り合いたかったら、まず寝たらいい。それが一番よくわかるのに。」
彼の言葉に、私の内側から拒絶反応が起きました。
「そうでしたね。三回会えばもう良いのでしたもんね。私はちょっと、そういうのは・・・せっかくここまで来て下さったのに申し訳ないですが。」
「まさか、パリまで来たのに?本気で言ってる?ありえないんだけど・・・」
本気で驚いている様子の成田さんとは隔たりを覚えました。私はやはり、パリに来たからとか、旅の勢いでなんとなくそうなることも嫌でした。
「大丈夫ですよ。ほら、さっきも見かけましたよ。そんな時のためのお店もあるじゃないですか。わかりやすい名前の・・・セックスショップとか、行ってきたらいいんじゃないですか?」
実際、レストランから散歩しつつ帰る途中に見かけ、話題にしたくなるのをこらえていました。
「は?ゆりかってそういう事言うの?私はそんな所には行かないよ。ひどいな・・・」
さすがに成田さんは気を悪くしたようでした。私もそれなりでしたが。
「とりあえず、ゆりかの気持ちはわかった。私のホテルはここだし、もうここで解散ってことでいいかな?もしもひとりで帰れないなら泊まって行っても構わないけど・・・」
「いいえ、ご心配なく。もう大丈夫です。さすがにここからは私も道を覚えています。数分の距離ですし。」
我ながら、冷ややかな言い方でした。
「なんだ、さっきはあれほど道がわからないとか、夜が怖いとか言っていたのに・・・ゆりかってずるいね。騙された・・・」
面白くなさげな言い方でした。こちらとしても、ずるいとか、騙したなどと言われるのも心外でしたが。
「さすがにこの駅からの道なら覚えていますから。成田さんのホテルがわかりやすい場所で良かったです。じゃあ、今日はありがとうございました。」
ほとんど言い合いのようになってしまいましたが、ここは早々に引き上げようと思いました。さようなら、と言い放ち私はその場を立ち去りました。
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