第49話 パリの夜

 しめくくりのコーヒーを頂いてお店をあとにしました。お腹がいっぱいだから少し遠回りをして散歩をしながら帰ろうと提案され、賛成しました。


「パリは夜に歩いてもそんなに怖くないと思うけど・・・でもゆりかは女の人だし、注意した方がいいね。」


 成田さんは機嫌が良さそうに見えました。


「私はすぐに迷うので、昼でもやや不安です・・・夜は余計に方向がわからなくなりますし・・・地下鉄に乗れば最寄りの駅から帰れると思いますけど、夜の地下鉄もどんな風かわからないので怖いです。」


 我ながら、そんなに臆病なのによくここまで来れたものだと思いました。ですが成田さんのおかげで今回の旅の経験は広がったと感じていました。


「そうか・・・じゃあ、ゆりかは私と一緒じゃないと帰れないんだ。ここで解散、ってなったら困るだろうね。」


 妙に上機嫌な様子で成田さんは言いました。たくさんワインを飲んでいたようで、少し酔っている風にも見えました。


「それは、本気で嫌ですけど・・・私のわかる場所までは一緒に行ってもらえないと困ります。」


「もちろん、そのつもりだけど・・・どうしようかな。」


 成田さんは薄く笑って私を眺めました。


「もう、意地悪を言うのはやめて下さい。感謝してたのに。」


 そのまま夜の街を成田さんと歩きました。夜はひとりで歩きたくないので新鮮ではありましたが、ちゃんとこの人は私を宿まで送ってくれるのだろうかと頭をよぎりました。


 以前札幌でこの人とお食事をしたときは、特に心配もしませんでしたがここはパリでした。数日ほどは自分で市内を歩いたものですが、成田さんと会ってからはすっかり案内をお任せしてしまって、後をついていくだけでは全然道が覚えられませんでした。


 急に置き去りにされても困りますし、どこか知らない場所へ連れて行かれてもどうすることもできず、成田さんと離れるわけにはいかない状況でした。


 うっかりしていましたが、気付けば成田さんを頼るしかなく、この人についてゆくしかありませんでした。彼を信じてはいましたが、含みのある冗談を聞かされて少しだけ心細くなっていました。

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