第48話 パリの食堂
成田さんの選んでくれたお料理はいずれも美味しく、お酒がすすんでしまいました。エスカルゴは貝のような食感で、殻をはずすのに専用の道具を使うのも不慣れでしたが良い経験になりました。
フォワグラは量がありました。日本のお店ではほんの少しだけお料理の中に混ぜられたものを味わったことはありましたが、さすが本場では豪快にいただくのだと思いました。こってりとした濃い味わいに、パンとワインがよく合いました。
前菜とパンだけでお腹がいっぱいになりそうでしたが、メインの鴨や仔牛もおいしくいただけました。
「料理によっては大味だけど、今日のものはまあまあですよね。でも正直、日本のフランス料理の方が日本人の好みをわかっているし、うまいかも。そう言っちゃうと結局和食が一番みたくなっちゃうけど。」
どうやら成田さんは本場よりも、日本人の料理したフランス料理の方が好きみたいでした。
「そういうものですか?私はそれほど、こちらのお料理を食べたことがないので・・・でも今日のお料理、すごく美味しかったです。お腹がいっぱいで、デザートは食べられないかも・・・」
後でデザートを注文する予定が、前菜もボリュームがありメインも量があったので食べられる気がしませんでした。
「ゆりか、パンを食べすぎだし。そこで飛ばしちゃうとデザートにたどり着けなくなるんだよ。でもこっちのパンはおいしくて、食べ過ぎるよね。」
相席の方たちと一緒のカゴの中に入ったパンを食べるのはささやかなコミュニケーションでした。成田さんのようにフランス語を話せたらもっと楽しかったと思います。それでも隣の見知らぬ方は目が合うと感じの良い笑顔を向けてくれました。おかわりを頼んで下さったので、ついはりきって食べてしまいました。
「いっぱい食べたし、そろそろ行きますか。デザートはまた今度。コーヒーはもらおうかな。ゆりかも飲む?エスプレッソだけど。」
また、呼び捨て・・・と思いつつ、嫌ではありませんでした。名前だけで呼ばれるのは、距離が近くなった気もしました。
「いただきます。こちらのカフェ、好きです。」
こちらでコーヒーを頼むと小さなカップに入った濃いコーヒーを出されます。お砂糖を入れて飲むとおいしくて気に入っていました。
Deux cafés, s’il vous plaît.
ドゥーカフェ、シルヴプレ。
お店の方へ伝える成田さんのハスキーな低い声が心地よく響きました。フランス語を話す成田さんが好きでした。
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