第46話 パリ散策

 気になっていた美術館を見学できて、目標が果たせました。成田さんから他の行きたい場所を尋ねられ、ルーヴル美術館は諦めた話をすると、せっかくなので出向いた方が良いと言われました。地上の入り口は行列ですが、地下のショッピング街から行けば入りやすいのだと教えてくれました。


 他にはパッサージュにも行ってみたいと思っていました。パリにはパッサージュと呼ばれるたくさんの美しいアーケード街があるらしく、テレビで見かけてぜひ訪れたいと願っていました。例によって自力ではたどり着けなかったので、成田さんにガイドをお願いしました。


「パリはつくづく街歩きが醍醐味だよね。私もここのパッサージュは好きだな。雰囲気があって。」


 成田さんの案内してくれたパッサージュは洗練された高級感のあるお店が立ち並んでいました。通りの床には美しい模様が施されていて、吹き抜けのような高い天井がまた絵になるのでした。古い西洋らしい雰囲気があって、まるで絵本か物語の世界に迷い込んだかのような気分になりました。


「なんだか古い異国の世界にタイムスリップしたみたいです。こんな場所があるんですね・・・」


 感激していると、成田さんが小さく笑って言いました。


「札幌にもあるよね、パッサージュ。こういう感じではないけど。」


「もしかして・・・狸小路のことですか?確かにあれも、アーケード街ですけど・・・でもなんか違う・・・あれをパッサージュと呼んだら怒られそうです。」


 地元にもアーケード街はありますが、むしろごちゃごちゃ、がちゃがちゃとした雑多な界隈でこちらのような美しさとは別物でした。


「狸小路も地元のパッサージュなのに。私は好きだけど。美味しいお店もたくさんあるけど、入れ替わりも激しいよね。」


 成田さんと話しながらあちこち歩き回り、浮かれて写真を撮ったり、途中カフェに寄って昼食を頂いたり、すべてが心ときめく素晴らしい時間でした。


 その後向かったルーヴル美術館は彼のおすすめ通り、地下からも入れることがわかり、時間も取られずにすんなりと入館することができました。あまりに広すぎるからと、くまなく見学することは諦め、めぼしい部分のみをセレクトして成田さんが案内してくれました。噂通り、モナ・リザの絵は思ったよりも小さいのでした。


 2、3時間もいたかわかりませんが、私はすっかり感覚が麻痺してしまい、目が回るような感じでした。ただでさえ巨大な美術館はエネルギーが強く、作品それぞれも強いエネルギーを放っているのだと思います。


「ゆりか先生、疲れたんじゃないですか?こういうところ、あまり長くいられるものじゃないですよね。そろそろ出ましょうか?」


 成田さんはよくご存じだと思いました。いろいろわかっていて、洗練された大人の男性で、その上フランス語も話せるなんて素敵すぎる・・・


 そうして心惹かれるほど、ふと我に返ります。こんなに出来すぎた人はやはり、すでに結婚しているのでは?でもパリまで来てくれたということは、やはり独身なのだろうか・・・


 ちゃんと聞いてみなくては・・・


 なぜここまで、はっきりさせないままだったのか。後戻りできなくなるようなことはごめんでした。

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