第43話 ふたりの旅

 成田さんへ、行ってみたかった場所をリクエストしました。メールでも伝えていたので彼は場所を調べておいてくれたようでした。


「私もこの何日かで行ってみようとしましたが、うまくたどり着けなくて・・・パリって、歩いているうちに他に気になる通りやお店があって、寄り道したり、すぐに脱線してしまいがちですね。」


 この街で数日過ごした興奮を初めて人に話しました。やはり旅は、誰かと一緒が好ましいのかもと実感していました。


「ゆりか先生、すっかりパリにはまりつつありますね・・・でもゆりか先生の行きたい所はちょっとマニアックな美術館ですよね・・・私も行ったことはないけど、ここから歩いて15分ぐらいに見えますね。そんなに遠くないでしょう。」


 こともなげに言われましたが、私は地図を読むのが苦手で苦戦していました。土地勘のあるらしい成田さんが来てくれたのは心強いことでした。


 ですがそれよりも、成田さんとパリの街を歩くのは刺激的でした。隣にいる男性の、異国の街並みも似つかわしく絵になる姿は。雰囲気のあるこの人を本当は立ち止まって眺めていたいほどでした。もちろん言葉にはしませんでしたが。


 ひとりで歩くパリも素晴らしいのですが、成田さんのような人と一緒にいるのは信じがたい事実でもありました。


 この人は、特別な人なのだろうか・・・?初めて見たときから、ずっと気になっていた。だけど怖くて声をかけることも、近づくこともできなかった。なのにこの人から私のところへ来てくれるなんて。


 内心とても感激していましたが、成田さんはいつもと変わりないように見えました。道案内をおまかせしていましたが、地図や携帯をチェックしながら、特に迷うこともなく目的地へ着きました。私がどこへ行くにも右往左往するのとは大違いでした。


「・・・ここかな。着きましたよ。たしかに目立たないですね。目印も地味でわかりにくいし。」


 思ったよりも早く、難なく到着したことに拍子抜けしました。


「もう着いたんですか?こんな、あっさり着く感じじゃなかったんですけど・・・」


 確かに私の探していた美術館の名前がありました。私が探し回っていた辺りとはまるで別の景色の中にありました。


「なんか不満そうですね。ひとりでは来られなかったんですよね?ゆりか先生ってしっかりしてそうに見えるけど、私がいないとだめなんじゃないですか?」


 からかうように、成田さんは得意げに言いました。


「・・・いろんな方にお世話焼いてもらうのが特技なので。でももしかすると、この建物は消えたり現われたりするのかもしれませんよね。」


 負け惜しみでしたが、もしかすると成田さんが悪魔の技を駆使しているのかと疑いつつありました。


「そんな可能性、初めて聞いたけど・・・ゆりかワールドでは、よくあることなんですか?」


 ゆっくりとした口調で聞き返してきた成田さんの笑顔にどきどきしました。時おりこの人は私を「ゆりか」と呼び捨てにするようになりました。

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