第42話 彼の到着
成田さんがパリに到着する日、私の泊まっているホテルまで迎えに来てくれることになっていました。前日の夜に東京を発つフライトで、早朝にパリへ着くので、部屋で休憩を取ってから私の宿まで来てくれるとのことでした。
彼は3日ほどの滞在で、そんなに短いスケジュールでは飛行機代の方が勿体なく思われました。ですが成田さん曰く、航空会社のマイレージがだいぶ貯まっていたとの事でした。
約束の時間よりも早めにレセプションのそばで待っていると、成田さんが現れました。前日までに何度もメールをもらっていて、会えることはわかっていました。ですが実際に彼の姿を目にしたとき、息が止まるような胸苦しさを覚えました。私の姿を認めた男性は片手をあげて微笑みました。
上質そうな黒のコートが端正な顔立ちに似つかわしく、悪魔のように魅力的だと思いました。この人の放つ途方もない色気のせいか、私の成田さんのイメージは魔王めいた禍々しいものになりがちでしたが、こうして外国にまで会いに来てくれたことに感動せずにはいられませんでした。
「パリのゆりか先生、お待たせしました。やっと再会ですね。」
からかうような口調でしたが、“パリのゆりか先生“という呼びかけに心が浮き立ちました。
「パリの、と言われるとなんだか素敵ですね・・・成田さん、早朝の到着でお疲れではありませんか?」
彼の顔を見るのはいつも気恥ずかしく、気後れしがちでした。一瞬だけ見つめた成田さんの表情は特に疲れた様子もなく、元気そうに見えました。
「機内でも眠れたし、朝からホテルでも休んだので元気いっぱいですよ。ゆりか先生は時差は大丈夫ですか?」
笑顔で優しい言葉をかけてくれたのに、なぜだか彼を直視できませんでした。
「初日はすごく早起きをして、それから少しずつ寝坊しています・・・でも日本にいるより早寝早起きできて良い感じです。成田さんは滞在が短いから、さらに体が大変と思いますけど・・・」
会えたことが嬉しいのに、目をそらしてしまいがちでした。やはりまだ、私にとってこの人の存在感は強すぎるのでした。遠巻きにこっそりと眺めているのがちょうど良かったのに・・・と思いました。
「私は日本にいても不規則な生活なので大差ないですよ。さて今日は、どのように過ごしましょうか、マダム?」
成田さんの呼びかけにくすぐったい感じがしました。こちらのお店でもマダムと呼ばれたり、年配の男性からはマドモワゼルと呼ばれたりして、悪い気はしませんでした。
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