第39話 異国

 外国においてこの手の話は聞いたり読んだりしたことがありましたが、実際に自分の身に起こると良い気はしませんでした。


 そう言われても予約書は持っているのだし、なんとかしてくれるはずだと彼の次の行動を待ちました。


 その間にも、スタッフの男性はあたふたと別の仕事の対応に追われていました。電話がかかってきて受け答えをしたり、どこかへ電話をかけてみたり、別の宿泊客があらわれて何か苦情を伝えているようでした。


 彼はすみませんとか、申し訳ないとか言葉ではお詫びを伝えている風でしたが心がこもっているようには見えませんでした。そのうち宿泊客の男性は怒り出して、お前はすみませんしか言えないのか!ろくに対応する気もないくせに!と若い男性を怒鳴り散らしていました。


 あの彼の働きぶりでは、怒られても仕方ないとお客の男性に心の中で同調していました。真面目に仕事へ取り組んでいるようには見えませんでした。


 怒鳴っていた客が去った後は、気まずい空気でした。私の方も早くして!と便乗して文句を言いたいところでしたが、さすがにフロントの人は落ち込んでいる様子でした。


「他のスタッフの人はいないんですか?ひとりでは大変そうですね。」


 同情しているふりをして英語で声をかけました。その若い男性は泣きそうな顔になり、前日の夜中からひとりで働いているとこぼしました。まだ働き始めて間もないとのことでした。


 彼はそのように告げた後、急にまじめな顔つきになって端末へ向かうと、バスタブ付きの部屋があります、と急に鍵を渡されました。だいぶ待たされましたが、やればできるようでした。


 部屋へ向かうと、シングルルームを予約しましたがツインルームにしてくれていました。バスタブもあるのは有難いことでした。日本とは違い、高級なホテルでなければシャワーのみの部屋もよくあるそうでした。あれこれ苦労もしましたが、無事に部屋までたどり着けたので報われた気がしました。


 ちなみに部屋にはスリッパがありませんでした。成田さんからすでに聞いていて、飛行機内でも便利だからと携帯用のスリッパを持参するようにアドバイスをもらっていました。洗面所のアメニティーも歯ブラシはなく、ボディソープと兼用のシャンプーのみで、コンディショナーはない場合が多いと本で読みましたがその通りでした。


 疲れていたのでお風呂は翌日にして、すぐに眠りたいと思いましたが小腹が空いていました。機内食で残した袋に入ったパンや小さな水のボトル、スナックなどを持っていたので夕食がわりに食べると、歯を磨いてベッドに入りました。


 すぐに眠りにつき、翌日はずいぶん早い時間に目が覚めました。早朝の4時半頃で、外はまだ真っ暗で真夜中のようでした。二度寝しようと思いましたが思うようには眠れませんでした。日本との時差は8時間で、フランスの朝4時は日本の昼の12時です。日本で寝坊をしても、さすがに昼過ぎまで眠れるわけではありませんでした。


 前日も夜の8時半頃寝たのでそれなりに睡眠は取れていました。二度寝は諦めてお風呂に入ることにしました。


 異国のバスルームというのも勝手の違うものでした。日本のホテルのバスルームはシャワーカーテンがありますが、この宿ではバスタブまわりにガラス窓がついていました。とはいえ大きさが全然足りないのです。ガラスのない部分から床に水が漏れるのは避けられず、シャワーヘッドも固定式のために戸惑いました。それでもお風呂に入ると身も心もさっぱりして心地よくなりました。


 部屋に戻り、テレビをつけるとフランス語が流れてきました。たまに英語の番組もありましたが、ほとんどのチャンネルがフランス語で、意味はわかりませんでした。それでもなんとか外国まで来られたことを実感して嬉しい気持ちになりました。

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