第36話 懸念

 自宅から改めて旅行の日程を成田さんにメールしましたが、まだ信じられずにいました。彼との会話を思い返し、成田さんのがっかりした顔や、思い直した様子を思い浮かべ、それでもまだ、からかわれていたらどうしようと思いました。


 日程を知らせたものの、成田さんが結婚しているのか、まだ確認していませんでした。その上本当にあの人がパリまで来てしまったら・・・それはそれで、どうしたものかと悩みました。


 一緒に旅行をするのは家族とか、彼氏とか、親しい友人とか、そういう人に限られるものと固定観念がありましたから、成田さんとは出会ったばかりでお付き合いもしていないので、とにかく不可解でした。


 本当に彼がパリまで来たならどうなってしまうのだろうと困惑しました。現地で一緒に観光をしたり、カフェに行ったりするのかと想像しました。先日一緒にお食事したのは良い時間でしたが、あまりに急展開すぎました。


 それより、もしも成田さんが結婚していたなら・・・


 それなのに、急にパリまで来るなんて、一体どういうことなのか。


 いろいろ考えすぎて、頭がおかしくなりそうでした。


 どうして一緒に来ても構わないなどと言ってしまったのか。でも最初はふざけて言っていたとしか思えなかったのに。成田さんは冗談の通じない人なのだろうか?


 見た目はあれほど悩ましいまでに洗練されていて、他者を惹きつけずにはおかないように映りますが、中身はどこかずれているのか、風変りな方だと思いました。


 でも本当に、パリまで来てくれたなら・・・


 そんなことになったら、ますますあの人に惹かれてしまう。


 もうすでに、これほどまでに心がいっぱいになってしまっているのに。


 異国の、あの憧れの街にたたずむ成田さんはどんなに素敵に映るだろう。


 まだ知らない土地の、歴史ある街並みのどこかで、甘やかな空想にふけってしまいそうでした。


 ・・・いけない、と思いました。信じてはいけない。私にそんなことが起こるわけない。フランスへ行って、そこで成田さんに会えるとか、話がうますぎる。


 その時まで、絶対に油断してはだめ。


 どうしてか、自分へ言い聞かせていました。


 こんな私に、そんな素晴らしいことが起こるわけない。騙されているのかもしれない・・・


 自分で計画した旅にまで、疑心暗鬼になり始めました。


 まずは無事に飛行機に乗れるのかすら、心もとないことでした。自分で空港へ向かって飛行機に乗り、国内の国際空港でさらに乗り換えヨーロッパへ行くなんて、自分の普段の生活からすればすでに現実離れしていました。


 まずは国際線に乗るところまで、それだけでもなんとかしなくては。そしてかの地へ降り立って、私はひとりでパリの街を旅して・・・それだけでも、素晴らしく嬉しいことだから。まずはそこまでを実現することができたら。


 実際に、パリへたどり着くまでは安心してはいけない。


 旅行の日程が近づくにつれ、奇妙な不安に苛まれていました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る