第33話 共通点
「・・・それで、ほんとに行くんだ、パリ!?いいな~!私も行ってみたい!」
ある平日、沙也の家にお邪魔していました。息子の創太もやんちゃ盛りの坊やになっていましたが、お客さんがいるとしばらくは大人しいとのことでした。
「うん、スポーツクラブで会った人が、いろいろ詳しく教えてくれてね。もともと行きたかったけど、すごく背中を押された感じ。ガイドブックも買ったし、もう行きたい場所もだいぶ目星がついたの。日程とホテルも大体固まってきているし。」
「パリかぁ~~・・・私にはまだ、遠い夢かなぁ。創太もいるしね・・・」
沙也はため息をつきました。
「うーん、子連れはハードル高くなるよね・・・でも、沙也と行けたらいいのに。私は行きたいけど?私も創太のお世話手伝うし、どう?」
しばらくぶりに会う創太は、いつになくはにかんで愛くるしいのでした。沙也と、創太とパリの街を歩けたならどんなに素敵だろうと想像しました。
「もう~、お誘いは嬉しいけど、子連れじゃせっかくの旅行が勿体ないよ。パリ、楽しんで来てね。そのスポーツクラブで会った人と行くわけじゃないの?」
「え?いろいろ教えてもらったけど、一緒に行くってわけじゃ。行きたいとは言ってたけど、まあみんな言うよね。」
「優理香、最近すごく積極的な感じだし、元気そうだから、スポーツクラブで良い出会いがあったのかと思った。そうそう、これ渡そうと思ってたの。前の不用品売りさばいたお金。送料とか、経費は引いてあるからね。」
沙也はどこからか封筒を取り出し、手渡されました。
「え、これって例の処分品だよね。そんな、沙也のお小遣いにして良かったのに・・・」
何気なく中身を見ると、思った以上の額のようでした。
「え、こんなに?沙也、大変だったでしょ?じゃあ半分にしよう。」
「もう、いいんだってば。パリ旅行のお小遣いにしなよ。お土産よろしくね。」
「え~・・・なんか悪いな。また今度ご馳走するよ。前行ったお店、気に入ってたよね?でもこの前、スポーツクラブの人が連れて行ってくれたお店もすごく良かったから、そこも良いかも。」
ふと成田さんの連れて行ってくれたお店を思い出しました。とびきり美味しいイタリアンのリストランテはぜひまた訪れたいスポットでした。
「あれ、優理香、誰かと素敵なお店に行ったの?男の人?」
沙也は面白がるように訊き返してきました。
「え?うん、例の、パリの事いろいろ教えてくれた人で・・・旅行が好きで、いろいろな国へ行っているみたい。でも成り行きな感じだったし、たまたまだけど。」
「成り行きとか、たまたまで良いお店行くかなぁ・・・その人優理香のこと、狙ってるでしょ。」
沙也は怪訝な表情で、決めつけるような口調でした。
「え・・・そんなことないと思う。すごくかっこ良くて、まともに見れないぐらい・・・いくらでも女の人が寄って来そうだし、よりどりみどりだと思うよ。それに結婚してると思うし・・・」
自分など、とてもあの人に釣り合うとは思えませんでした。あの日お食事できたのも、たまたま偶然に違いないはずでした。
「なにそれ・・・優理香が惚れてるの?あと、なんとなく誰かに似てない?結婚してて、グルメで、財力もあるとか・・・?」
沙也の指摘にぎくりとしました。そう言えば・・・初めて成田さんを見たときも、私は須藤のことを思い出していました。
「結婚してるかはっきり聞いたわけじゃないけど、30歳代後半ぐらいに見えたから、多分ね。でも、違うの。そんなんじゃないし。特に親しいというわけでもないから!」
何故か、慌てて言い訳をしていました。誰かに似ているという沙也の言葉が胸に刺さっていました。
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